本編
□天の涙
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シロガネが起き、身仕度を整え終えるとリシアたち部屋を出て、ロビーへ向かった。
ソファーには変わらずウィズがいたが、今日は書類などの書き物はしておらず、机の前に立つエスターと話をしていたようだ。
女性の制服も白衣に似たコートであり、今朝見かけた女性をなぜエスターと思ったのだろうか。間違いの羞恥を思い出し、リシアは俯く。
「話は聞いたわ。うちのダメリーダー連れてくんだって?」
「ダメリーダー…」
「この子、人を指揮したり指示したり、話すのも人と合わせるの苦手なの」
困った笑みを浮かべる黒い肌の女性に、存じてます、と言いたくなるのをリシアは堪える。エスターは続けて言う。
「だから私たちが手助けするようにって言われててね…でも、馬鹿が堪忍袋の緒を切っちゃって。あぁ、君たちも当事者よね。胸くそ悪くなるようなの見せてごめんなさいね」
リシアが割り込んだ後、ニールは自分の言ったことを省みたのか分からないが、無言のままその場を立ち去った。
やはりよくなかったのだろうか、とニールの背を見ていたリシアだったが、どうも、とボソリと低い声が聞こえた。
声の方向を向けば、ニールと同じように立ち去ろうとしてたウィズがおり、後で報告する、と背を向けたまま言って歩み去った。
エスターの言葉に頷くことも、首を振ることもできず、足元を見てしまう。
「ヘメラが頂点に達する辺りで、アルムに向かおうかと考えております。よろしいでしょうか?」
アルバは、ウィズやリシアたちに向かって言う。
リシアが了解です、と言った後でシロガネが欠伸を噛みながら、了解、と言う。ウィズも頷き、エスターはじゃあ準備手伝っておくわ、と言う。
そうしてシロガネの朝食をとりに昨日入った定食屋に向かうため、宿を出た。
「改めて話してみると、エスターさんはニールさんよりは涙の信託者に寛容な感じがするんだよなぁ」
歩きながら、リシアは言う。
「裏ではどう思ってるかなんてわかんねーぞ。サダルフォンの連中だって色々いるのは当たり前だけどよ、あくまで表面だけでも繕ってるだけかもしれねーし」
シロガネが言う。それでも、とアルバは言う。
「表面上でも差別しないようにみるのだって大変なんですよ。心の底では忌み嫌っていても、何事もなく接するエスターさんに、私は尊敬します」
「役目とプライベートを分ける…それがきっと『仕事』なんでしょうね」