本編
□晦冥の力
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モーズ山脈を貫くようにしてできた坑道に入ると、すぐ脇に停止した馬車が見えた。
それは見覚えのあるもので、持ち主は馬に水を与えていた最中であった。
「ダリルさん」
「おぉー!アルバさん!!またまた会えるとは!今からアルムに?」
「えぇ。そのつもりです」
アルバが声をかけると、ダリルはすぐに反応を返した。
「だったら乗せてきます?ハルワタート経由になりやすけどね」
「いえ、すぐに向かいたいので、アマダットの森を越えていきます。なので、途中で下ろして頂く形にはできませんか?」
オッケー!オッケー!!と、ダリルは軽快に言う。
「人数はこの前と…あれ?一人増えた?」
「彼は私の用事に手伝っていただける方で、ウィズさんと申します」
ウィズが小さく頭を下げると、ダリルは思い出したように言う。
「あー!この前のサンダルの!!随分酷い目にあってたんだなぁ。あんたは大丈夫だったか?」
またウィズが頷く。ダリルはそれを見て、そーかそーかと活気よく言う。
「じゃ、丁度こっちも出発しようとしてた所なんだ。荷台で悪いが乗ってくれ。今回は荷物ねぇから広いぜ」
よっしゃ、とシロガネがすぐさま荷台に飛び乗る。それを見てリシア溜息を一つ吐き、ダリルに向かって礼を言って乗り込む。ウィズもリシアと同様にしてから荷台に乗る。
「で、アルバさん。別れた後、大丈夫だったか?」
「えぇ。何事もなく」
ダリルがまだ荷台に上がらないアルバに言う。
「心配だったんすよー。俺のせいで、アルバさんがもうアルムに帰ってこないんじゃないかって」
「それはすみませんでした」
アルバは微笑みながら言って、荷台に乗り込んだ。
ダリルは、馬が水を飲みきったのを確認した後、バケツを戻し、手綱を握って走らせる。荷台が大きく揺れ、やがて一定のリズムを刻む。
ところで、とリシアはシロガネに近づいて小声で言う。
「サンダルってなんだよ」
「あ?サダルフォン連邦国の略した言い方じゃねーか。靴じゃねーぞ」
「え!?そんな言い方するのか!?」
リシアが驚くも、シロガネは続けて言う。
「まー別の意味にとらわれがちだし、あんまり聞かねぇけどな。メタトロニオス王国をメタトロって言うようなもんだ」
「いや、それはわかるんだよ。けどさサンダルの『ン』はどっから来たって話だろうが」
「言いやすいだろ、そっちの方が」
確かに、サダルと言うよりはサンダルの方が言いやすい。だが、それでもなかなか腑に落ちない。そんな中、ウィズが答える。
「サダルフォンの元となった名前は、クロス教の聖書にも登場する天使、サンダルフォンから」
「成る程!だからサンダルって呼ばれてもおかしくはないってことですか」
「いい思いはしない」
ウィズは手を横に振って、否定を表す。