本編
□春景色
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どれくらいの時間が経っただろうか。
昼にはヘメラの傾きによって時刻を表せるのだが、夜に時刻を告げるものは一般の者にとってはない。ニクスが常に定位置あるためだ。
やろうと思えば、星の位置から時刻を割り出すやり方もあるが、日によって出る星が変わるため、その専門でなければ難しいものだ。
リシアからすれば、ウィズからの指導の下、練習問題に四苦八苦している最中だった。
外が騒がしい。
人々の苦痛に苦しむ声や、悲鳴が聞こえる。アルバは上着の反比例の弧を描く袖を通し、マフラーは巻かずに手に握っただけで、飛び出すように外に出る。
リシアたちもそれに続こうとしたが、奥で寝返りをうった人物を思い出し、叩き起こす。半目のシロガネをリシアが引き連れ、ウィズがシロガネの上着のを持って戸を開ける。
瞬間、キンッキンと連続して金属音が響く。思わず顔を庇うも、光る粒子と風が入っただけで何事もない。
「……魔力の量が、さっきよりも上がってやがる」
シロガネは呟く。辺りを見渡すと、嘔吐を繰り返す青年の横でアルバは背を撫でていた。リシアたちはそれに近づくも、シロガネは片手でアルバを引き離す。
「シロガネさん!?一体何を…」
「初め言ったことをもう忘れてんのかテメェは!マバルアの魔力は…アルバ、テメェの魔能周波数に近いってよぉ!!」
驚愕の顔のアルバの胸ぐらを掴みながらシロガネは言う。
「その人救いたきゃ下手に術使うな!余計悪化するだけだ!!」
アルバは苦痛の表情を浮かべながら、静かに頷く。シロガネが荒々しく手をほどくと、アルバは尻餅をつく。
おい、やりすぎだ、とシロガネに言おうとするも、シロガネは青年に近付き、詠唱を唱えていた。術を発動させて、シロガネは言う。
「時間制限つきのにした。テメェら全員、さっさと家の中引きこもって、出来るだけ外の魔力の影響の低い所にいろって告げてこい!」
「わ…わかった。だけど、カルスが…!」
シロガネの眉が動く。
「指示してから探せ!気持ち悪くて辛いのはわかっけど、これで死ぬことは早々ないんだ!むしろこうやってパニックに陥ってる方が危険なんだ!!」
マルスは弱く、分かった、と告げると、粒子に輝く闇の向こうに消えていった。ウィズがゴーグルを付け、操作しながら言う。わずかに、ビービーとしたエラー音が鳴る。
「…想定外」
「そのオモチャでも測定不能ってくらいの魔力の暴走か…最悪だな」
シロガネは、雪のように舞う光の粒子と、その闇の奥にあるマバルアを視ながら言う。リシアはアルバが立つのを手伝い、気付いたことを言う。
「そういえばお前、前に来たときはチカチカするって言ってたのに…ここ量でも平気なのか?」
「あぁ…ていうか、精度が上がったっていうか……?だから、境界線とかも見えたんだろうけどさ」
シロガネが目を擦りながら答える。
「さっさと千年樹のとこ行こうぜ。小さくなりすぎて粒子になった花弁じゃ、魔力と一緒だっつーの」