本編

□春景色
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 夜の女神が道を照す中、踏み出す度、甲高い金属音が鳴り響く。
 シロガネの対属性の術が弾いてるのを実感するが、その度にシロガネが気掛かりになる。
 その本人は、愛用の上着に器用にも片手で袖を通す。アルバも、僅かに震えながらそれを打ち消すようにして強がりを首に重ね巻く。

 丘の上にたどり着いた先は、強制的に生に縛られた大樹が見える。根元が僅かに光っているようにも見える。

「あの光っている所…丁度、魔晶器の辺りですね」

 アルバは答える。
 ウィズが近づこうとするも、あと数歩のところで甲高い金属音と共に、硝子の割れた音が響く。

 すぐにウィズは背を丸め、うずくまる。シロガネが詠唱を唱えながら近づこうとしたが、ウィズの突きだした手によって制止する。
 ウィズは、弱々しく詠唱を唱え、発動する。

「…試し」
「ってことにしてやるよ」

 シロガネは手を腰に当てながら言う。ウィズは立ち上がりながら言う。

「こうなることは想定外。シロガネ。遮断力場は出来ないか?」
「遮断力場…ってあれか。この前の魔粒子生命体(ルパーティクル)が使ってた」

 ウィズは頷く。

「範囲は?」
「作業場が出来るだけでいい」
「じゃ、魔晶器の近くと、少しってことだな。それなら…」

 シロガネは目を閉じ、詠唱をみる。

「――始まりに連なりし燈、闇を照らす眼の先に我らあり。今、『め』を抑える偽りの創者の名において、空を隔てる幽冥を!」

 唱えながら終えると、地面に黒いラインが引かれ、薄いカーテンのようにたなびく。
 そこから何度も小さな金属音が響き、自分の近くで聞こえないことにリシアは気付く。

「すぐ終える。リシア」
「はい!」

 別空間を開き、鞄を取り出す。ウィズは受けとると、機具を手に取り、セッティングしている間に樹皮を切り開いてくれ、という。

 リシアは、了承の意を表し、剣を抜くも、そこ前にシロガネが槍で光の部分を突く。それに呆気をとられていると、甲高い金属音と共に、槍から漏れ出す黒い霧が蒸気圧で樹皮を切るように、徐々に穴が広がる。
 そのままシロガネは槍を十字に切ると、侵食されるようにして樹皮は消える。

 その下には、さながら分割した一個の卵のように、それでいて胎動するように、一定のリズムを刻みながら巨大な魔力石(セレークレスタ)があった。

 葡萄のようにつぶが見えるも、大きさはバラバラだ。
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