本編

□背負う覚悟
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「ぱんぱかぱーん!まさかの二人で『ここ』にご来訪とは!!俺ついてるぅ!!俺、最高にうれっしぃ!!!」

 白い手袋をした手が、中指と親指を弾くようにして指を鳴らすと、パンッと明るく軽い破裂音が響く。指先からリボン状の白く輝く紐や光の粒子が散る。
 それを呆れた目でシロガネとリシアは見る。

「……馬鹿か。アズラエル」
「いや、開口一番に馬鹿はなくない!?」
「…空気の読めないやつを、俗に馬鹿と言うんだよ、アズラエル」
「じゃあ俺は馬鹿じゃないじゃないか〜!」

 どこまでも白い世界で、水色の髪の死の天使はくるりと一回転する。その様子を冷めた目でリシアたちは見る。

「…こいつ、いつもこうなのか?」

 リシアはシロガネに問かけると、なんだ、と赤い目で振り返って言う。

「いつも会ってなかったのか」
「そもそも、もう一人の子は滅多に寝てないでしょ?まーこの前のはたまたまだと思ったんだけどねぇー」

 アズラエルは陽気に会話に割り込む。

「どうやら違うようだ。多分、君に引っ張られて来てるのかもしれない」

 シロガネを指差しながら言う。
 リシアは、ハッ気付く。確かに、以前アズラエルと出会った記憶はある。だが、その事をこの前起きた直後は覚えていただろうか。
 なのに、今は思い出せる。理解できない現状に、流れるはずのない世界で汗を流す。

「また今度寝てみて、また会えるか試してみてね〜!俺はいつでも待ってるよ〜!!」

 明るい死の天使は回りながらリシアに近付き、その手を握る。黄金の目を輝かせるも、リシアには引くような目しか出来ない。

「こいつ、いつも暇してるから誰かに会えるのが嬉しいんだとよ」
「あぁ、『かなりの暇人で、度々会いに行かないと拗ねる』奴……」

 馬車の中で言ったシロガネの言葉が一致する。アズラエルは、そんなこと言ってたのか、と不貞腐れるもすぐに二人に両腕を広げて言う。

「まー今日はゆっくりしていきたまえ二つの意思よ!ここは、どこにでもあってどこにもない場所。決して知覚し得ない空間。言わば超越論的意識の自己自身の置き場!!時間の概念すら歪めるこの『無への道』にて、まったりと話を聞かせてもらおうか!!」

 シロガネは呆れ気味に溜息をつく。気分の高揚しているアズラエルに何を言っても無駄だと悟っているからだろう。
 しかし、リシアは俯きながら、いや、と言う。

「出来ればまた、すぐに目を覚まさせて欲しいんだけど…」
「まーた君はそれかぁ。そんなに目を覚ましたいのかい?」

 リシアはしばし間を置いて頷く。アズラエルはそれを見て一つ息を吐き、言う。

「俺が前言ったこと、覚えてない?」
「…『君の起きた先は、本当に現実かい?君は、いつから目覚めていたんだい?』……の、やつか?」
「そう、それ。よく記憶してたじゃん」

 アズラエルはリシアの目をジッと見ながら言う。

「君は、真に目覚めることを望んでいる。望んでしまっている。故に、君は夢を否定し、現実に起きることが出来なくなっている」
「相変わらず、言ってることは意味不明だ」

 リシアの返答に、アズラエルはふっと笑って視線の距離を縮める。

「現象を受け入れるのではなく、本質を見定めにいくんだよ。今も、かつても、君の目で、だ。リシアース・エンデ」
「だから、訳がわからないって」
「全てを分かってしまったらつまらないだろ?その時になったら理解できるような、俺はそういうのが好きなんだ」

 無邪気な笑顔でアズラエルは言ってリシアから離れる。リシアはシロガネに戸惑いの表情を送ると、シロガネは片手を上にあげて、お手上げの意を表した。

 リシアは溜息をつく。胃の中で黒い何かが蠢くのが分かる。行かなければならない。
 逃げてはいけない。
 不快な腹の中の黒いものを取り払うには、それしかないと、頭では分かっている。

 だが、その黒いものは鉛よりも重く、足取りを重くさせているのも分かる。

 アズラエルがまた笑って手招きをする。そうして音もなく歩きだした。
 シロガネも、一度こちらを見てそれに続く。

 リシアは茫然としながらも、足は自然にシロガネたちの後に続くようにして進み出す。
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