本編
□背負う覚悟
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たどり着いた先は、以前と同じ途方もない程巨大な扉の前であり、アズラエルがそこの床に座ると、シロガネもそこに腰を下ろした。
後から追い付いたリシアは、アズラエルの指示によりシロガネたち同様、数段の階段を上った先の扉の前に座る。
リシアは、アズラエルが前のように簡単に目を覚まさせる気がないことを悟った。
ふぅと息をついて、巨大な扉を見上げれば、遠くから見たときとはまた違い、一番上見ようとすると首が痛くなった。
「じゃ、アズラエルに色々聞きてぇことたまってんだよ」
シロガネが言い出すと、アズラエルは弾むようにして何かと尋ねる。シロガネは左手の小指を折って言う。
「一つ目。何でリシアの目が赤くなってんだ」
「えっ嘘!?マジで!?」
一番驚いたのはリシアである。どうにかして自分の目を見ようとするも、この場に鏡のようなものはない。
ならばと左手を突き出して術を唱えようとする。だが、普段感じる魔力のイメージが出来ないどころか、脳裏を横切る古代語も浮かばない。
どうしたものかと静止するリシアを横目に、アズラエルは腕を組んで答える。
「今の君たちは、『超越論的意識』の立場とも言えるんだ。つまりは『本質』、『魔に近いモノ』になってる」
アズラエルはシロガネ、リシアの順に指差しながら言う。
「そうなると君たちは、魔力と肉体の相互作用で他を知覚することになる。その知覚の大多数を占める目に、より影響が及び、『活動』を意味する赤に見える。ちなみに君も赤いぞ」
マジでか、とシロガネもリシアと同様の反応を示す。リシアは頷き、アズラエルに言う。
「前半部分は相変わらず意味不明だけど。シロガネが天使化…光の羽が生えた状態で赤い目になるのはそれと同じ?」
「そうだね。触れてきた分裂体の本質とリンクし、より魔の影響が強くなったことで引き起こされたんだ」
分裂体の本質とのリンクをリシアは聞こうとするも、シロガネが次、と質問を変える。
「二つ目。明らかに俺自身に癒属性が効きにくくなってる。一体なんなんだこれ」
そうなのか、とリシアはシロガネに言うと、シロガネはあぁ、と言って頷いた。
「元々、効果の半減くらいではあったんだけどよ、それでも効いてたものは効いてたんだ。なのに、ここ最近ときたら全くと言っていいほど効果がない。ルタートの坑道で倒れたときとかもそうだし、今だってそうだ」
今だって、というのはカルスによってひらいた古傷のことだろう。
リシアはその事件の張本人を思い出し、グッと身体が締め付けられる。アズラエルは言う。
「なんだ、前言ったのに」
「何をだよ」
「『彼を呼ぶ度に彼の力が流れ込んできてる』…そして、彼の力は冥属性」
彼とは、とリシアが尋ねると、シロガネはあの影が盛り上がってできる人型のを指していると解説する。リシアは少し考えて気付く。
「シロガネに冥属性が多くなってきてるから対属性の癒属性が効かなくなってる…?」
「そういうこと」
アズラエルは言う。はぁ!?とシロガネは不機嫌を言葉に含めて言う。
「俺に影響がある…ってそういうことかよ!おいおい…ただでさえ涙の信託者よりも再生能力低いってのに……」
「ま、今回のはちょっとバランス的によくなかった代償だけど、また別の分裂体の本質に触れればまた変わるさ」
アズラエルは言う。
「どこにあるのか分かんねぇから困ってんだろうが…」
シロガネは溜息をつきながら言う。そうして左手の指の三本目となる指を曲げる。
「三つ目。オーキってやつがどうなったか、お前なら知ってるだろ」
リシアの心臓が跳ねる気がした。どす黒い何かが喉の奥までくる感じがする。