本編

□水中下の花
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「…ナンテコト。アナタノヨウナ……」
「ご理解頂けて光栄です。ここはお互いのためにも退いていただけませんか?」

 ザナミ、と叫ぶ声が聴こえる。

「…マスターニ背ク訳ニハ、イキマセン」

 立ち上がる火柱の中、ザナミと呼ばれた魔粒子生命体(ルパーティクル)は、虹色に輝く翼をひろげ、詠唱を始める。
 そこに、先程見つけた新米の異能者の少女は、渡した銃火器のトリガーを引き、魔力(ルナート)でできた砲弾を放つ。反動で彼女は後方に吹っ飛ぶも、砲弾は対象を追尾し、調度ザナミの左肩に直撃する。

「…私ヲ、アノ女神ノ手先ト一緒ニシナイデ……!」
「えぇ、してません」

 オルフィス教の聖職者の服を着た者がザナミの懐に飛び込む。顔を上げ、その目をのぞきこむ。

「『先住民』さん」

 赤い目が煌めく。
 左手に纏う光を突き出すと、光はザナミを貫通する。しかし、溢れるのは赤い血ではなく、粒子であった。ザナミが呻き声を上げる。

「痛みを感じるんですか。良くできてますね」

 青年がいっそう深くに光の剣を突き刺すと、ザナミは更に悲鳴を上げる。ザナミはもがきながらも、青年の身体の中心を捉え、同じような術で青年を貫く。
 青年の服は焦げ、白い装束は黒く変色する。トリガーから手を離し、少女は思わず、悲鳴のように青年の名を呼んだ。

 しかし、青年は痛がるどころか、笑みを浮かべた。ザナミを貫く剣を抉るようにして動かす。

「まさか属性すらも見抜けない?それとも、特化能力のない貴方には考えられないことですかね?」

 確かな手応えを感じ、ピタリと光の剣の動きを止める。

魔力石(セレークレスタ)を見つけました。もう一度言います。お引き取り願えませんか?」
「…!化ケ物ガァ!!」
「心外ですね。私はオルフィス教聖職『者』ですよ」

 ザナミが右手に黒い闇を集めているのを見つけると、それを相殺するように光る手を重ねる。闇は掻き消え、依然として聖職者は剣を離さないままだ。

「他の皆さまは、暴走する前に私の指示に従ってくださいました。貴方が引いても、マスターは貴方を責めることはないでしょう」

 ザナミが一瞬、固まる。彼の口と聴こえる言葉がズレる。

「私の言葉が聴こえるなら、耳を澄ましてください。永遠を生けしモノよ。オルフィスが望む、永劫の彼方まで」

 永劫の彼方まで、とザナミが復唱する。金糸の髪の青年は、赤い目を輝かせて言う。

「お引き取り願います。我々が争う必要など、ないのですから」

 虹色の羽を持った女性型魔粒子生命体(ルパーティクル)は、ゆらりゆらりと揺れながら肌の黒い主人の方へ帰っていった。

 青年はふぅっと息を吐くと、透ける床に手をついて座り込んだ。はっと気付いてすぐさま手を離すも、床に手型が残り、手が溶けかけたように僅かに形を崩した。
 払うようにして何度か手を叩けば、直ぐに元に戻ったのだが。

「…しかし、人工ではあれが限界なのか……」

 虹色の羽が消えた先を見つめ、言う。そこに眼鏡をかけた少女が駆け寄って来た。青年は、感謝と礼を告げ、持っていたバズーカ型の魔晶器を時空属性の小さな箱に格納する。
 そこにまた金属音と駆ける音が響き、振り返れば赤を基調とし、所々に青の混じった軍服の者が近付く。まだあどけなさの残る黒髪の少年は左拳を右肩に乗せ、一礼する。

「テロリスト、及び魔粒子生命体(ルパーティクル)の制圧を確認しました。協力、感謝します」
「全ては女神の導きのままに。そちらも、初めての任務によい成果を上げてくれました」

 黒髪の少年は生真面目にその事にも感謝を告げると、更に報告を続ける。

「あの魔粒子生命体(ルパーティクル)は、サダルフォン連邦国の者の所有物でした。現在、拘束中です」
「サダルフォンの…?まぁ、その辺りは私が管理するものでもないので、そちらにお任せします」

 少年は明瞭に同意を答える。そしてまた、青年は告げる。

「アルムに、涙の偽創者(レオルフィー)が確認されました。近々、ハルワタートに忍び込んでくることでしょう。特徴を話しますので、確保に尽力してください」

 金の髪の青年は、銃火器を込めた箱を少女の手にのせ、少し話を聞いていってほしいと告げた。
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