本編

□落ちる裂傷
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「シロガネ君は渡さないんだから!」

 片目を半開きにし、リシアの思考は停止する。というより、言っている意味が分からず困惑する。渡さない?何を?
 後方で金髪の黒い目のアルバが吹き出し、腹を抱えて笑いを堪えている。それに関係なく、黒服の美女は黒い手袋をはめた手でビシッとリシアを指差して言う。

「こんな性別の区別できないような貴方に、アタシは負けないわ!」
「あぁ、うん。よく分かんねぇけど、あんたの勝ちでいいよ」

 強調された胸が揺れ、眉間に皺を寄せて彼女は言う。

「いけしゃあしゃあと…!」

 仕方なしにリシアは相手を観察し、言う。

「肌も白いし、綺麗なブラウンの髪で美容に努力しているの分かるよ。目元もパッチリしてて、虹彩パターンがよく見えるほど薄い茶色の虹彩に黒目がはっきり分かる、綺麗な眼だ」

 リシアは続けて言う。

「細身だけど、程よく筋肉がついてるっぽいし、それを強調する黒い服もまた格好いい。強いて言うなら、そんなにカッカしないで、出来るだけ笑顔でいるほうがもっと可愛いし、更に人の目を惹くと思うよ」

 それと、とリシアは付け加えようとして目の前の美女は顔を赤くしてもういい、もういいとリシアの言葉を遮る。

「リシアさん…手慣れてますね」
「え?人の外見的特徴を羅列しただけですが…」
「誉め殺しって知ってますか?」

 アルバは込み上げる笑いを吹き上げながらそういうと、リシアは顎に手を添え、言う。

「知ってますけど、こういう美人な方が照れたり喜んだりするのを見ると安らぎませんか?」
「まぁ、確かに…可愛いものですけども」

 さらりと言うリシアにアルバは袖の下で腕を組む。半確信犯。そんな言葉がアルバの中で作られた。美女とリシアのやりとりはさながらコントのようであり、笑うのを耐えられなかった。
 そんな中、今まで喋らなかった柄の悪い男の一人が開口する。

「俺たちは、あんたらが何でアイツと一緒に行動してんのか聞きてぇんだ。お嬢の心情はともかくとして、だ」

 そこそこに人通りがあり、すれ違う人たちがこちらをチラリと見ては関わりたくないと言わんばかりに小走りに去っていく。何で、と言われても、よく分からない連中に話すほどリシアの口は軽くない。
 言い悩んでいると、スキンヘッドに黒いサングラスをした男は再び言う。

「…まぁ、アイツに危害を加えなくて、軍にも突き出す気がないってんなら、及第点だ。今までだってそうだったようだし、な」
「あなた方は一体何者でしょうか?」
「あんたらが話したがらないように、俺たちにも話したくない内容がある。それだけさ」

 アルバの問いに、男はそう答えた。

「強いて言うなら、物真似されてちょーっと怒ってる集団って所かしら」

 もう一人の男の影に隠れてブラウンの髪の美女は甘い声で言う。リシアは何にも結び付くことができず、そうか、と流した。

「シロガネには、いつも助けて貰ってる。居なくなっても困るんだ。だから、そういうことはしないさ」

 リシアはそういうと、スキンヘッドの男は頷き、邪魔したなと言って踵を返した。

「もう…!二度とあんなこと言わないでよね!!」
「俺は思ったことを素直に言っただけだけど?」

 美女の言葉にリシアはそう返すと、美女はまた頬を染め、早足に去っていった。

「リシアさんも悪い人だ」

 アルバはそう言うも、何故なのかはリシアには見当がつかなかった。
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