本編

□アルベドの目論
2ページ/10ページ


 ウィズが店から離れるのに合わせてリシアもそれに着いていく。しかし、いつもより歩くのが速く、リシアは追い付くのがやっとだった。
 リシアが僅かに息切れを始めた辺りでようやくウィズが気付いたのか、振り向いて申し訳なさそうに頭を掻く。呼吸を整えながらリシアは進むと、ウィズもそれに合わせる。

 あぁ、そうそう、と言ってリシアは脇に抱えていたシュガーソースの箱をウィズに見せる。

「さっき買ってたようなので今はいいでしょうけど、なくなったら言ってくださいね。複合機、壊したお詫びです」

 ウィズは一瞬キョトンとした顔になるが、口元を隠して頷く。その手の下の口は、弧を描いていた。リシアはそれを見て少し安心すると、ダースの箱は別空間にしまった。
 リシア自身、言いたくないことの一つや二つはある。それが分からない程鈍感ではない。

「もぉー、はぐれないでくださいよ」

 チェイスは大袈裟に頬を膨らませると、ウィズは謝るように片手を顔の前に立てる。
 そうしてヘメラが南中から傾きだした辺りで、ようやく都の端、魔力(ルナート)で出来た地面の終わりに辿り着く。その先は果てまでタート湖が続き、透けるように美しい橋がその先まで続いている。

「うーん、確かにこれは日が落ちるまでには渡りきれなさそう……」

 リシアは呟くと、チェイスがそうでしょ?と返してくる。
 観光客と思っているのか、橋の前に立つ軍人は見て見ぬ様子だ。とてもありがたい。
 それと同時に、湖を術で渡ろうとすれば、その軍人の目に留まるということだ。とてもやりにくい。

「アルムの馬車がないか、探してきますね」

 そう言ってアルバは踵を返すも、すぐに足取りが重くなり、袖の中で腕組みをする。それを見たチェイスは首を傾げると、ウィズが黙ってアルバに着いて行く。アルバはそれに気付くと、微笑んでまた歩き出した。

「……結局、アルバさんって何者なの?」

 待機となったリシアに、チェイスは尋ねる。リシアは、ここまで来たら包み隠さず話そうと心に決めるも、何から話せばいいのか分からず、思い付いたことを口に出す。

「アルムに住んでて、年単位で寝てるほどの寝坊助なんだけど人々から信頼されてる涙の信託者(オルクル)で、かなり年取ってるわりに社会情勢に疎くて魔裂器もテロもよく分かってなくて…あと、料理も出来なくて、最初に出会ったのが落とし穴に引っ掛かってた人?」
「そ、そうなの…」

 黄金の聖職者とのギャップを感じているのか、チェイスは呆れ目に応える。ここまで欠点挙げたらそうなるか、とリシアは反省する。

「でも、さっきチェイスに話してくれてたように、ちょっと厳しいけど優しい人だと思うよ」
「うん、本当にね。聖職者のアルバ様と、何が違うのか分からないの」

 リシアの言葉に、チェイスは返す。冷たい風が流れ、チェイスの長い紫の髪を揺らす。

「……俺も、そう思う。人を気遣ってくれて、いつも笑顔で、慰めてくれる、いい人さ。どちらもね。けど、違うところもあるんだ」
「何?」

 チェイスはリシアの言葉を待つ。リシアは遠くのアルバの背を見て言う。

「目の色が違うことと、長い銀の髪の少年を捜してくれって頼むことかな」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ