本編
□悔悛の秘蹟
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リシアは、図書都ヴレヴェイルでの行動を相談しようとしたところに、締め付けるような頭痛と、込み上げる吐き気から、革製のエチケット袋を口元によせる。これでは何もできませんね、とアルバが呟く。
「………案」
ウィズが、米噛みを押さえながら床に突っ伏し、指を一つ立てて言う。
「……移動、四日。……氷属性、意識レベル低下、交代、行う」
「ウィズさん!しっかり!!ただでさえ言葉少ないのに、更に悪化して単語喋りになってますよ!!!」
アルバは揺れる床を利用してウィズの元に、滑るようにして駆け寄り、肩を揺らして言う。いつもなら、余計なお世話、とでも言いそうだが、ウィズはそれすらも言う気力もなく、アルバに揺さぶられるがままだった。
ウィズの言いたいことに気付いたリシアは、エチケット袋から口元を離して言う。
「えぇっと……つまり『移動まで四日以上はかかるから、その間氷属性を扱えるものが交代で見張りをし、他の人はその氷属性の能力で意識レベルを極限まで低下させてこの酔いをしのぐ』…ということ……でしょうか」
「リシアさん流石です。流石はウィズさん翻訳機」
アルバはリシアを見ながら言う。リシアが続けて言う。
「車酔いの主な原因は内耳のリンパ液の揺れによるものです。視覚と身体の平衡の情報のズレから自律神経が混乱し、ムスカリン受容体のM1とヒスタミン受容体のH1に刺激が伝わって、M1による副交感神経優勢の反応、H1による平滑筋痙攣や嘔吐中枢を刺激することからこれらを抑制する……」
「……えぇっと………」
アルバが苦笑いを浮かべながら引き気味に何か言おうとしているのに気付き、リシアは話すのを止める。
氷属性による意識レベルの低下に対する審議のつもりだったが、ウィズもチェイスもまともに話せない中、ただ一方的にリシアが話しているだけになっていたのだ。
リシアは、何をやってるんだと自分に恥を感じ、顔を両手で覆う。
とりあえず、とアルバが話を変えて言う。
「どうやら私は皆さんより酔いが酷くないのですが、残念ながら氷属性に適性がないもので……その方を治癒して少しは酔いを楽に、誤魔化す程度はできますが」
氷属性に適性のある方はどなたですかね、とアルバは犯人探しをする。
リシアは、適性はあるも、この状態から逃れるためにすぐさまアルバから目を逸らす。確か、ウィズも使えてた筈だし、もし適性がなくてもウィズなら複合器によって属性の魔力再構築が可能だ。
激しい馬車の走行音だけが響く中、ウィズがゴーグルを下げ、いくつか上のボタンを操作し、リシアとチェイス、アルバを『視』る。
「……リシア、0、5、6、9、10。チェイス、7、8、9、10。アルバ、0、10、11、12、13。リシア、氷属性適性有」
「う、ウィズさぁ゛ぁ゛ぁ゛ん!!!」
ウィズがリシアに死刑宣告をする。ウィズが言う。
「俺、2、3、4、5。リシア、俺、交代制決定」
「…分かりました。えぇ分かりましたとも。こうなったら逃げませんよ」
ウィズ自身もカウントしたことから、リシアは決意を固め、言う。
「それならば、どちらが先攻かを、三すくみゲームで決めようではないですかぁ!!」
三すくみゲームとは、AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つという関係式のできる遊びである。歴史は四大国時代にまで遡り、古来から伝わる拳遊びという(説明略)つまりはじゃんけんである。
「三すくみ…ルール……知ってるが…………」
「それならば問答無用!負けた方が先攻!!申し訳ないウィズさん!!!」
ゴーグルを上げながら言ったウィズに、なけなし程度に謝ったリシアは、拳を振り上げ、決まり文句を言って手を広げる。
ウィズも同様に手を差し出すも、それは指二本を立てたものだった。
状況が飲み込めず呆然とするアルバの横で、リシアは真っ白に燃え尽きた。