本編
□記録図書都
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「先程はお見苦しいところを失礼致しました。メタトロニオス王国軍学校所属のエルヴァン・エンデです」
通りを離れ、エンの案内のもと、声の響きにくい食事処にリシアたちは入った。
個室に通されてすぐ、エンは一行にメタトロニオス王国正式の礼で自己紹介をする。
「見ての通り、サダルフォン人のウィズ・ラザフォードさん」
リシアは濃い褐色肌のウィズを示して言う。
「そして、義務学校の時に引っ越ししたチェイスと、アルムの寝坊助アルバさん」
余計な情報を与えても仕方なく、リシアは簡潔に説明する。不服のように少し苦笑いするアルバを他所に、エンは首を傾げて言う。
「それで、噂の白髪長髪野郎ってのは……?」
「今は、いない」
ふーん、と興味なさげにリシアの答えにエンは返すと一番乗りで奥の席に座る。リシアは呆れるような溜め息を吐きながらアルバ達に一礼すると、気にしなくてよい、という返答が返ってくる。
「それに、人目を気にせず話せる場所も得られましたしね」
アルバは微笑みながら各々が座り終えたのを確認して最後に腰を下ろす。
「それで、話の続きだけど……」
「ほぼ、答えは出てる」
チェイスが言うと、ウィズはエンを見ながら言う。エンは何のことかと頭を斜めにすると、リシアは言う。
「宗教軍の方に用があるんだ。ちょっと制服貸してくれ」
「えぇーー……それバレたら俺も処罰物じゃん」
当然の反応である。そこをなんとか、とリシアは念を押そうとすると、エンが先に切り出してきた。
「姫様が攫われたのは、レー姉から聞いてる。けど、軍の対応は知ってる?姫様が攫われたことを黙って姉貴ら犯人を追ってるんだ」
「民衆の混乱、反組織の意欲上昇……それらを防ぐ方法」
ウィズがいうと、そうですね、と言ってエンは頷く。
「けど、犯人を重要人物と言って大々的に取り締まってはいない。陰湿なこの国では、犯罪者の家族なんて非難中傷ばかりなのに、それもない。つまり、本当に黙秘されてるんだ」
リシアは小声で、本当に申し訳ない、と目を伏せて呟く。エンも、リシアの行ったことに何かしらの被害があると考えていたのだろう。だが、聞く限り今回の事件ではそれがない、ということだ。
「変なんだ。まるで『国自身が真犯人を知っている』かのような」
エンの言葉に、一同に沈黙が訪れる。成る程、とウィズが小さな頷きを言うまで、時間が止まったかのようであった。
「つまり、リシアやシロガネは犯行目撃者。犯行を完全な物にするためには、邪魔な存在」
「その犯行が、何の目的なのかが見えてこないのが、厄介ですがね」
ウィズとアルバは言う。
「仮に教皇選出だとしても、それは国として名誉なこと。何も隠すことなんてないでしょうし」
チェイスは、涙の初とオルフィス教の関係を語る。
そんなわけで、とエンは言う。
「交渉条件の前払いとして、姉貴!アルム産特級ステーキ丼奢って!!」
エンの前方に開かれたメニュー。その値段を見て顔がひきつりそうなのを我慢しながら、リシアは低い声で肯定の言葉を捻り出した。