本編

□ジ・アーテル
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 着替えてくる、とエンは告げるとリシアは片手を出して制止した。

「どうせ、制服以外ろくに服なんて持ってきてないだろ?ついでにそれも買ってやるって」

 よく分かってる、とエンは呟くとリシアは経験者だからと言った。
 リシアは魔物からとったという素材を売り、オーラムを得るとエンとチェイスと共に服屋に入った。

 他二人はこの都にいるという情報屋の涙の初(オリティア)に会うことは出来ないかと、捜しに行った。

 黒が基調の短めの上着に太めのベルト、滑り止めのあるグローブに赤いラインが綺麗なブーツと、ほぼ全身の衣類を購入し、先程リシアが受け取ったオーラムを使い果たしてしまった。
 予算内だ、と震える声のリシアにチェイスは、服を甘く見すぎよ、とリシアの肩に手を置いて言った。

 リシアに制服を渡した後、エンは軍学生の部屋に戻るため基地に戻る。
 どうせ明日は貴重な休養日だ。その日に浮かれて制服じゃないとでも言い訳しようと考えた矢先。

 宗教軍入口が慌ただしいのを、エンは見た。まさかもうリシアたちは侵入したのかと背筋に冷たい汗が流れ、壁に隠れて様子を窺う。
 だが、想定していたものではなく、話を盗み聞きする限り、聖地オリエルに運搬する手順を確認しているようであった。

 なんだ、と一息吐いてそこを通りすぎようと歩き出す。
 軍学生の拠点はその奥だ。失礼します、と声をかけて人だかりの脇を進む。

 しかし、その輪から急に離れだした、メモを片手に考えながら一歩踏み出した分隊長にエンはぶつかりかける。
 お互い、直前に後退したため衝突することはなかったのだが、目はバッチリ合ってしまった。

 血のように濃く赤い目だ。

 確か、首都エノクで見たアルバも、このような色をしていた。
 今日、リシアと共にいたアルバは自分たち同様、夜のような黒い目だったが。

 そして、顔を見る。つり目の短い黒髪だ。どこかで、どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。
 いや、正確にいえば個人の認証は済んでいる。だが、こうして血の通った色の皮膚をしているのは、有り得ないことだ。

 適合するべき人物ではない、と心の奥底が叫んでいる。

「すまない。だが、ここは宗教軍拠点の軍基地だ。何用でここにいる」
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