るるりら。

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ポーン、ポーンとボールを打つ音が響く。
広いテニスコートには、小さな音でしかないが、それでさえも何故か、嬉しい気持ちになった。


「……テニス部、マネージャー」


自分の役目を呟いてみる。
最初はやりたくなくて、そもそも関わりたくなくて、やる気なんでゼロだった。
だけどまぁやることになってしまい、それならば全力で取り組もうと決意した。
それから、約二週間。

青葉の気持ちは、変わってきていた。



「あーちゃん!!おはヨーグルト!朝から食べると美味しいよ!」

「いや、挨拶すればいいのかツッコめばいいのか分からないんだけど」

「うーむ、どっちも?てへ☆」

「2000円置いてどっか行け」

「いやん素敵!」



一人コートを眺めていた青葉に話しかけたのは琴音。満面の笑みで青葉に抱き付いた。
思いっきりボケをかます琴音は、昨日のことなんて忘れているような表情で、それが皆を心配させない為だと重々理解している青葉は、普段通りに振る舞った。
昨日の悲しい顔なんて、見たくもないし。

そんな考えはレギュラー陣も同じらしく、抱き付いてくる前に岳人といつものように楽しく会話していたようだ。
岳人の方に視線をやれば、小さくピース。鳳や慈郎も笑っていた。



「てか琴音、早く仕事しなさいよ」

「ぶーぶー、遅刻したあーちゃんがそれ言いますかー!?」

「私は良い」

「ぬはっ!格好いい!てかあーちゃん温かくない?」

「そう?よく分かんない」

「温い(ぬくい)温い(ぬくい)」

「分かったから離して!」


ぎゅうぎゅう締め付ける琴音の腕に苦しくなり、無理やり押し返す。
その間に、琴音のセリフについて考えた。

…やっぱり風邪、ひいたか。昨日すぐシャワー浴びたのにな。

昨日の帰り晃達と別れてからスーパーへ向かった。今日の夕飯は何にしよう、なんてお気楽に考えながら食材を買い、店を後にする。
そこまでは、何の問題も無かった。
けれど、ビルが並ぶ道を曲がり、すこし狭い所に入った時だった。
上から水が降ってきたのだ。
いつもならそんなもの除けられるはずなのに、咄嗟の事と今だ続く琴音への心配から、思いっきり被ってしまった。
もちろん髪や制服はびしょ濡れ。瞬時に上を見上げるも、そこにあったのはビルの間から差し込む綺麗な夕焼けだけだった。
それから家に帰ったのだから、体は当然冷えきっている。
シャワーなんて、意味がなかったようだ。



琴音がぎゃあぎゃあ騒ぐ間に、小さくくしゃみをする。

ああ、確かに、体は熱いかもしれない。







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