戦国無双短篇ノベル

□疎通
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それはとても晴れた日で…


まるで眉間にしわのない三成の晴々とした面持ちのような日だった。


時は1600年秋。
主君、秀吉亡き後、今なお忠義を尽くす武将がここにいる。その名も石田三成。
その三成率いる西軍に敵対するは徳川家康率いる東軍。

三成にとっては絶対に負けられない戦。
自分に賛同し遠く離れて戦う兼続、幸村の志をを無にしないためにも必ず勝たなければならない。

例え一緒に育った清正や正則と刃を交えることになろうとも。

軍勢の数ではけっしてひけをとらない西軍ではあったが、慎重な三成は油断はできないと険しい表情を微塵も崩そうとしない。
そんな三成を見兼ねて傍から島左近が声をかけた。


「殿、勝つまでは油断ならないのはわかりますが、そう眉間にシワを寄せたっきりじゃせっかくの男前が台なしですぜ。」


「ちゃかすな左近。戦は面でするものではない。」

「ですが殿、そうしかめっつらのし通しじゃあ、疲れてしまいます。」


「面が疲れるか。考えたこともなかった。」


「蛇皮線は弾かない時には弦をゆるめてあります。あれはピンと張りっぱなしだとすぐに切れちまいますからね。いつ戦が始まるのか分かりませんが、今のうちちと休んでください。左近が代わりに眉間にシワを寄せておきますから。」


「俺を気使っているのか。ふっ、俺の面の真似にしては似ていないぞ。」


三成は初めて表情を緩めた。


「そう、それですよ、殿。男前が一層あがりましたなぁ。戦場の色男。」


「それはお前だ、左近。」


いたずらっぽく笑う主に左近は包むように笑顔を返す。


もうすぐ天下を揺るがす大きな地響きが起ころうとしている。


極限だからこそ主の緊張をほぐそうとする家臣。その意図を汲んで返せるまでになった堅物な主君。


(殿、逆に私を和ませてくださるとは感無量。この左近嬉しく思いますよ。)



これが二人にとって最後に交わされた言葉になろうとも。

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