創造せし者達

□創世神話
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 その者は、闇の中そこに一人で存在していた。その者は男でも女でもなく、名も無かった。必要ではなかったからだ。

 やがて、その者はそこの暗さから逃れたいと考えた。ここの安らかさと静けさも好きであったが、それだけでは足らなくなっていた。

「――明るさを、私に与えよ」

 その者の、最初の望みであった。光はすぐに現れた。そして光と闇が二つに分かれた時、その者と対照的な者が生まれた。闇から生まれし者はその者と良く似ていたが、その者の髪が金に対し闇の者は黒髪であった。

 その者――光の者は、闇の者に言った。

「貴方は私の半身、私の分身、私の友、そして私の影。私は、総てを創造せし者」

 闇の者は、光の者――創造せし者に言った。

「そう、私は貴方の影、私は総てを破壊する者。貴方の要らぬ物を、消し去る者」

 そして、宇宙が創造された。すなわち、〔ビッグ・バン〕と呼ばれるものである。


 創造せし者は、数多の星を創った。破壊する者は、要らぬ星を塵と化し、流した。創造せし者は言った。

「流れた星の光には、皆の願いを叶える力を与えよう」

 又、創造せし者は美しい星々に命を吹き込んだ。

 しかし、生まれたての命は自らを守る術を知らず、次々と息絶えていった。

「私達だけでは、この小さき命を守る事は出来ない」

 すると又一人、今度は塩の含まれた水――海から、優しげに笑う者が生まれた。

「私は、総ての誕生を祝福する者。――貴方の生み出した命を守る者」

 そして、様々な生命体が創造され、色々な星で生を育むようになった。
 その中には、人類種も存在した。


 やがて、命は色々な星で芽吹いた。木、草、花、虫、動物、そしてヒト…。

 最初は皆仲良く暮らしていたが、その内に命あるモノは皆争いを始めた。

 争いは、創造せし者も破壊する者も命を守る者も、望んではいなかった。

 三人は哀しんだ。どの命も大切なものなのに、命あるモノ達はそれを分かっていなかった。

「私達では、争いを止める術を持たない」

 すると、三人の流した涙から又一人厳かな者が生まれた。

「私は平等を司る者。――善悪を分け、罪と罰を与える者」

 こうして、生きとし生ける総てのモノに、命の大切さと平等さが備わった。
 罪を受け、罰あるモノは破壊する者が土に還していった。
 善と悪の区分が成され、又宇宙は豊かになった。


 命あるモノは、命を生み出す術を知っていたが、何故その様な事が必要なのかが理解出来なかった。
 故に、ある時から命は全く次の生を育む事を止めてしまった。

 原始の四人は哀しんだ。命を育む大切さを、教えたくとも教えられなかった。
 そこで四人は、一つの果実に一人ずつ接吻した。するとその果実は、一人の快活な青年に姿を変えた。

「私は生の営みに愛を与える者。――性愛と、欲望を植える者」

 命あるモノは、ここで初めて他のモノを愛するという事を覚えた。

 この五人の原始の神々が生まれて、初めて宇宙は正常に回り出した。


 これが、創世の理である。


 やがて創造せし者は、何も創るモノが無くなった。命あるモノ達が自らで命を創り出したからである。
 しかし、それは幸福も不幸も産み出していった。原始の神々と違い、モノから創られたモノ達は不完全であった。
 それを止める術は、もう五人の神々には出来なかった。

 そこで、創造せし者は最初の友――破壊する者に言った。

「私の分身である貴方だけに託そう、この世が美しく回らなくなった時。…総てを壊して欲しい」

 すると破壊する者は言った。

「それは出来ない。私の力は貴方が創ったモノを要らないと判断した時に壊すだけだから」

 しかし他の三人も、破壊する者に懇願した。

「この世には矛盾がはびこっている。未だ『愛』が機能しているから保っている」

「もしも『愛』がこの世から消えてしまえば、その時に」

「貴方の力を――。総てを無に帰す破壊の力をこの世に」

 そこで、破壊する者は人の姿を持って堕天した。自ら進んで堕ちた神となり、只の人となった。

 その時、堕天の証として破壊する者は右目の下に傷を受けている。
 その傷は、しかし何時か必ず癒される事になる。


 創造せし者は、眠りについた。悪夢を視る為に。
 命を守る者は、移動する島に姿を変え、『王冠の地』と呼ばれる様になった。
 平等を司る者は、総ての命を裁く為に一つの星に邦を創り、そこに君臨した。
 性愛を与える者だけは、何処かへと旅に出た。生命の風に愛を吹き込む為に。


 ああ、破壊する者よ。
 願わくば、貴方の力が貴方の怒りがこの宇宙に降り注ぎません様に。



《完》

 
 

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