創造せし者達

□下働きも悪くない
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 アタシも、まさかこんな事になるなんて思ってなかったよ、ホント。
 先週、アーロン中等学校の義務課程を終わらせたばかりで、アタシは
「あー、やっと堅苦しい学校生活から開放されたわー! とりまのんびりするわー」
ってベッドでゴロゴロしてたら、いきなり両親から呼び出されてしまった。
「ロシィ、あんた来月から働きに出なさい」
「はあ!? ワケ分かんないだけど!」
「毎日毎日何もせずにぐうたら過ごして! 母さんね、あんたの為を思って仕事探して来てやったんだから、感謝しなさい」
「勝手に決めんなよ! やっと学校も終わったんだし、今はモラトリアムなカンジで生きていたいんだけど」
「言ってる意味が判りません。それから、そんな汚い言葉遣いは止めなさい。」
 止めなさい、と言われても、癖だからしゃーないじゃん。ったく、どーしてこんな家に生まれちまったんだろ、アタシ。
 あ、アタシの家は一応貴族ってなってて(下っ端だけど)、子供の頃から躾がどーとか陛下の為とか言われてたワケ。でも、そんなの個人の向き不向きあるよねー。アタシは勿論、向かないタイプ。
 だけどさ、貴族のタシナミとか何とかで通ってた王立学校は、坊っちゃん嬢ちゃんばっかのセレブな奴等だったんだ。ま、インケンなイジメとかは無かったけど、学校では浮いた存在だった。おかげで、マブ友とかも出来なかったなー。
 とと、それは置いといて! アタシの母さんも父さんも、学校卒業したらすぐに仕事に出すとか、酷くない? ふつーなら、可愛い娘に遊ばせる時期ってのも作るよねー。
「馬鹿な事おっしゃい。あんたを学校に通わせるだけでも、幾ら掛かったと思ってんの。もう大人なんだから、せっせと働きなさいな」
「そうだぞ、お前にはお淑(しと)やかさが足りん。その点、その仕事先は貴族としての花嫁修業も出来る。一石二鳥だろ」
「それに、其処は寮も有るらしいわ。可愛い子には旅させよ、って言うからね」
「マジかよ、寮生活なんてウンザリだ…」
「兎に角、もう決まった事ですからね。何を言っても、無駄だと思いなさい。さあ、今日からさっさと支度するんですよ」
 アタシは腹が立ったから、其処らにあったオシャレなクッションを両親に思いっきり投げ付けてやった。見事、取り澄ました母さんの顔面にヒット! やったね!
「こら! ロシィ、ロシレッタ!!」
「ふーんだ! こんな家、こっちから願い下げだよ!」
 アタシはそう言って、部屋の中に駆け込んだ。

 とうとう、この日が来てしまった。旅行カバンに詰め込んだ荷物は、思ったより少なかった。文句を言ったら、
「今度から給料出るから、それで買いなさい」
とか言われた。ふざけんなよ!
 今から行く場所は、大貴族ラピス家らしいけど…この地図、間違ってない? ずーっと壁ばっかで、何処にも家らしい家が見当たらないんですけどー!
 あ、ヤバい。疲れた、もー限界。なんで今日こんなに暑いんだよ! まだ六月だろ!? どっかにコンビニか何か無い?
 フラフラと歩いていくと、壁が垣根に変わっていた。植え込みの方で、何か音がする。人の気配を感じたアタシは、迷わずそこに向かった。
 垣根越しで覗くと、誰かが後ろ向きで作業してるみたいだった。大きな麦わら帽子と茶色い繋ぎの服は、土で汚れていた。後ろ姿でも判るのは、その人がそーとーなデ…いや、ポッチャリという事。
 何してんだろ、あの人。ま、いっか。丁度いいから、ラピス家の場所聞いてみよっと。アタシは、自慢の大声を出した。
「あのー! すんません、アタシここら辺詳しく無いんですけど、近くにラピス家っていう貴族の家あるの知りません?」
 すると、その人は振り返ってこっちに寄ってきた。これがふつーの携帯小説だったら、まあイケメンとか言って恋に落ちるトコだろうけど、残念ながらそんなことはなかった。
 そいつは四十半ばくらいのおっさんで、ちょっとボサボサな茶色の髪を後ろで一纏めにしていた。鼻の下に生えている短い髭をポリポリ掻いて、アタシに話し掛ける。
「きみ、ラピス家に用事?」
 丁寧だけど、間延びした低い声は想像通りっていうかなんというか。アタシは出来るだけ可愛い笑顔を作って、はいと答えた。
「アタシそこで明日から働く事になったんですけどー、この地図間違ってるみたいなんですよー。だから、教えてほしくて」
 細い目を丸くして、おっさんは首にかけたタオルで額の汗を拭いた。
「まあ、それは大変だったね。なら、その扉から入っておいで」
 指差された所には、木で出来た簡単な扉があった。アタシはちょっと警戒しながらも、このおっさんの言う通りにした。
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