竜を求めし者達

□メタル装備のお姫様
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 それを一目見た時、クリフトの顔色が蒼白になった。
 天を衝くかと思われる程の高さを誇る、天空の塔。下から見上げても、その頂上は遥か上空に存在しているのが理解出来る。
 アトラスは天空の剣を肩に担ぐと、自分を囲む仲間達を見回した。彼の姿は、まさしく天空人のそれの様に神々しい。世界中に散り散りにされていた『天空の武器と防具』を装備したアトラスを、仲間達は誇らしげに思っていた。
「じゃあ、これから天空の塔を登るぜ。…馬車は入れねえから人選しなきゃいけないな」
「勿論、あたしを連れて行くわよね? このキラーピアスもやっと手に馴染んできたところだし」
 ふわふわとした巻き毛の、可愛らしい少女が諸手(もろて)を挙げる。だが、アトラスは彼女の申し出にしっかりと首を横に振った。
「いや、此処は長丁場になりそうだ。アリーナよりも、重装備のライアンが適任だろう」
 確かに、防御力に不安の有るアリーナには荷が重いやも知れぬ。彼女は渋々
「そうね、アトラスの言う通りかも知れないわね。此処はライアンに任せるわ」
と、ライアンの肩を叩いた。
「…うむ、心得た」
 やや畏まって、屈強な戦士が呟く。
「それから…マーニャ、後衛に廻ってくれ。危なくなったら、直ぐに脱出出来るようにしてくれよ」
「OK、判ったわ。その分の魔力は最低限残すとして、他は目一杯呪文を使わせて貰うわよ」
 艶のある長い髪は、深い紫色に見える。露出の激しい服が良く似合っている美女は、あでやかな笑みをその官能的な褐色の肌に乗せた。
「さて…と、あと一人…」
 アトラスは言いよどむと、端正な顔が青白く震えている事に気付いて目を遣る。
――ああ、そういやそうだった。
 緑色の神官服に身を包む青年の、弱点を思い出した。今までにも何度となく目の当たりにしていたので酌量はしていたのだが、天空の塔は流石に彼の能力を借りねば突破出来ぬであろう。
「あの、アトラスさん。私は…気分が悪くなってきましたので…」
 そう言ってそそくさと馬車に乗り込もうとしたクリフトに、天空の剣を突き付ける。ここは心を鬼にせねばなるまい。
「クリフト、お前が来い。全体回復と完全蘇生があるのと無いのとじゃ、雲泥の差だ」
「…ミネアさんも回復が使えるじゃないですか…」
「ミネアは装備にも不安が残る。今回は待機で良いな?」
 マーニャと良く似た姿形で有りながら、纏う雰囲気は全く違う大人しい者の顔を顧みる。彼女も、アトラスの尤もな意見を肯んじた。
「そうですわね。…世界に一つしか無い武器を持ってらっしゃるんですから、こう云う時でないと宝の持ち腐れですわよ、クリフトさん」
 言葉に隠(こも)る毒が怖い。
「ミネアさんに盾も兜も剣も差し上げますから、私を待機させて下さい!」
 必死である。横からアリーナとブライがじとりと睨んだ。
「何よー、クリフトあんた強い魔物と闘えるのよ、嬉しくないの!? あー羨ましい!」
「この阿呆が…、アトラス殿の決定した事は変えられんのじゃぞ」
 ブライも自分が戦線から外されて機嫌が良くないらしく、しきりに自慢の白髭を撫で擦る。
「し、しかしブライ様…私は高い場所は遠慮したいのです…」
 仲が良いのか悪いのか、三人の言い争いは続いていた。だが、何時までもこうしていても埒があかぬ。アトラスは痺れを切らして、声を張り上げた。
「早いトコ入らねえと、日が暮れちまうぞ! 夜になったらもっと大変だろうが」
 そう言うや否や、アトラスはクリフトの肩を掴んだ。力では到底敵わぬ彼は、アトラスの為すが儘である。
「じゃ、ちょっくら行ってくるからな。もし俺達が夕方まで戻ってこなかったら、先にゴットサイドに帰っておいてくれ」
 ずるずると引き摺られる様に天空の塔へと向かう姿は、とても『伝説の勇者とその仲間達』には見えなかった。

 危惧していた通り、天空への塔は難関であった。
 今までよりも更に強い魔物達は、アトラス一行の行く手を遮る。それに加え、広くて高い構造は彼等の方向感覚を麻痺させた。
 だが、激戦を抜けて漸く地上十一階に辿り着くと、一気に視野が広がった。強い風が容赦なく彼等の体に吹き付ける。
「わあ、気持ち良い景色…。雲が近くに見えるわ、最高!」
 高い所が好きなマーニャの感嘆とは裏腹に、はぐれメタルの剣を杖代わりにするクリフトは立っているのがやっとの態だ。その様子に、先頭を行くライアンも頭を抱える。
「不甲斐ないぞ、クリフト殿。もう少しシャキッとなされよ」
 苦言を呈する年輩者の忠告も耳に入らぬ程足が震えているクリフトを見て、マーニャは口を抑えて笑いを堪えていた。アトラスも、その翡翠色の髪を掻き上げて溜め息を吐く。マーニャは右の人差し指で、クリフトの額をコツコツとつついた。
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