竜を求めし者達

□姫が従者で臣下が姫で
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 エンドール城下町は今日も賑やかである。
 数日前から、アトラス達はこの世界屈指の大都会にて滞在を決め込んでいた。偏に連戦続きの仲間達を労う為、もう一つは今回の功労者マーニャの提案であった。
「キングレオは強かったけど、流石にこのマーニャ様の敵じゃなかったわね」
 得意満面で毒蛾のナイフをくるくると回しながら、艶のある声を上げる。宿敵の一人とも言える闇に堕ちた王を倒した彼等に、束の間の休息が必要なのは明白であった。
 更に、キングレオに拘束されていた王宮戦士ライアンをも仲間に加え、彼の歓迎も兼ねて娯楽の多いこの場所に骨休めを決めたのである。
「アトラス殿に出会えた事、このライアン一生の思い出となりますぞ。これから、魔王討伐に粉骨砕身致します」
 堅苦しい挨拶が、非常に良く似合う。アトラスは右手で尻を掻きつつ、苦笑いを零した。
「こっちこそ宜しくな。…仲間になるんだ、そんなに畏まるなよ」
「そうそう、こいつ勇者とか言われてる癖にスッゴい言葉遣いや態度悪いし! 年上とか身分とか全然考えてないでしょ」
 マーニャがそう言って、彼の頭を小突いた。安穏とした空気が、その場を和ませていた。

 トルネコは、エンドールに到着した早々に実家に寄っていた。愛する妻と息子の様子を確かめると共に、そこで家族水入らずを満喫する為であった。
「あなた、旅は大変でしょう? 今日はゆっくりして下さいな」
「うん、そうするよ。数日はここに滞在する予定だから、のんびりしようかな」
 アトラスも、野暮ではない。世界中を飛び回る生活をしている時だからこそ、大切な人との時間は割いて欲しかった。
『その代わり、少し軍資金が必要だからな。預けてた金、少し下ろすから』
 こう言って、銀行からちゃっかり大金を下ろすのは流石勇者という所か。何時もはアトラスやマーニャの無駄遣いを諫めるトルネコだが、今回は多目に見る事とした。
 だが、彼が家族サービスを行っている時に、一行は大変な目に遭っていたのである。

 アリーナはぶつぶつと文句を垂れ流していた。理由は、
「神聖なるコロシアムで結婚式なんて、言語道断よ! コロシアムでの催しなら、また武術大会を開けばいいのに!」
という、彼女らしいものであった。
 お付きのブライは、そんな姫の様子に落胆している。美しく着飾った花嫁を見て、アリーナも触発されるのではと思ったが、それは儚い夢であった。
「しかし、エンドールとボンモールは我がサントハイムとも親交ある国ですぞ。一言、お祝いの言葉をモニカ姫に献上するのも、大事な事ですじゃ」
「そんなに言うなら、じいだけ挨拶に行ってらっしゃいよ。とにかく、私はこんな堅苦しい式もう嫌だからね! 行こう、クリフト!」
 そう言って、人込みの中をすいすいと抜け出し、アリーナは結婚式場を後にした。珍しく、クリフトが大声を出す。
「お待ち下さい、姫様! すみませんブライ様、私は姫様をお守りせねば……」
 アリーナの事となると素早さが増す彼の後ろ姿を見て、ブライは深い溜め息を吐いていた。

 エンドール城内の謁見の間である。
 結局、ブライは一人で結婚の祝辞を述べた。エンドール王は
「あの姫君らしい」
と笑みを見せたが、ボンモール王は多少様子が違っていた。
「ほう、サントハイムには美しい姫が居られるのか…これは良い話を聞いた」
「と、申しますと?」
 ブライが、思わず聞き返す。
「我がボンモールには、息子が二人おってな。一人はリック、モニカ姫の婿じゃ。もう一人、これはリックの腹違いの弟でデュークという愚息がおる」
「何と、それは初耳じゃ」
 ブライは内心ニヤリと笑ったが、慎重に言葉を選んだ。
「それはそれは…ボンモール王は子沢山ですな」
 儀礼用の外套を翻し、ボンモール王は肩肘張った。態と勿体付けて、ブライに語る。
「デュークにも良い縁談を…と思っておるのじゃが、もし宜しければ、そちらのアリーナ姫と我が息子のデュークを一度逢わせてみては貰えぬじゃろうか? 待っておれ、すぐに手紙を認(したた)める故」
 有り難きお言葉、と頭を垂れるブライは、複雑な気持ちであった。
〔済まんのうクリフト…、しかし姫の為じゃ、辛抱せよ〕

 夕刻となった。
 宿屋への帰り道、ブライは人気の無い方向から自分を呼ぶ声を聞いた。辺りを見回すと、大木の陰に一人の老婆が居る。
「もし…そこのご老人、此方においでくだされ」
 神秘的な何かを感じ、引っ張られる様にブライは彼女の眼前に立った。
「儂に、何用か」
「貴方様は、何かお悩みになって居られる様子…この老婆がお役に立てれば、と考えたまで」
 ブライはほっほっと笑うと、杖を付いて言った。
「流石に、老いた者の眼識は鋭いのう。…色恋に疎い年頃の娘に、結婚の話をするのは気が退ける、と思っておった」
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