竜を求めし者達

□過去拍手小話
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■悪い虫だから
〔勇者×クリフト〕


 クリフトの肌は白い。
 同年代の同性だからか、宿の部屋や風呂も一緒な時が多いから、余計に目についてしまう。

 奴にとっちゃ、それはコンプレックスだそうだが、俺からすれば別に悩む必要がないんじゃないか、と思ってる。

 今日も、同室にされてしまった。どうも、おっさん連中は夜中で酒盛りでもしてるんだろう。
 頭の固いクリフトがいたら、

「早く休んで下さい」

とか言われちまうから、俺と一緒にさせるっつうのは判ってる。

 風呂上がりのほこほこした体をじっと眺めてたら、

「何か御用ですか」

とか言われた。

「…やっぱ、肌白いよな」

「だから、言わないで下さいって。これでも気にしてるんですから」

 眉間に皺を寄せて、怒った口調になる。アリーナには見せない表情だ。

「そうか? 俺はそれもお前の個性の一つで、好きだけどな」

 俺の言葉に、奴の表情が変わった。一言で言うと妙な顔。

「…そんな事言われたのは、初めてです」

 そうなのか。俺は素直にそう思っただけなんだが。
 素直ついでにずっと心の中で暖めてた言葉も言う。

「肌だけじゃない、髪も瞳もキレイな青い色だし。顔も整ってて、俺好みだ」

 妙な顔から、今度は照れて真っ赤になる。忙しい奴め。

「…褒め殺しですか」

「いや、本当だって。結局、俺はお前が好きなんだって事」

 なんだ、素直に言えた。こんな事なら、もうちょい早くに言っときゃ良かった。

 そう思ってたら…なんだ、クリフト?
 おいおい、ぶっ倒れるなよ!! 貧血か? 駄目だなあ。と思いつつ、体を支えてやる。…あ、顔近い。

「い、いきなり貴方がとんでもない事を言うからです…」

 なんだそりゃ。俺は正直に想ってた事を言ったまでだけど。

「…あ、友人として好き、という事でしたか。それは、私も貴方の事大切な友人ですよ」

「違えよ」

 支えていた腕に力を込めて、ベッドに引き上げる。上からのしかかると、不安げな顔があった。

「ちょっと…何すんですか」

「んー、そんだけ肌が白いと跡が残り易いかな、と」

「虫に刺された時とか、結構残りますね。…て、何を」

 そうか、虫か。羨ましいぞ、虫。おのれ。

 呆気にとられているクリフトの美味そうな首筋に、思いっきり吸い付いた。


 次の日。

 クリフトは、詰め襟のボタンを更にきつく締めていた。首筋を隠すような仕草も見せる。

「クリフト、どうしたの? 今日、ちょっと変よ」

 アリーナが心配そうに彼を見詰めた。俺の好きな優しい笑顔で応える。ああ、いいなアリーナ。羨ましい。

「いえ、別に。……首筋を悪い虫に咬まれただけですよ」

 俺は虫か。それも『悪い』っつう形容詞付き。

 だが。その時クリフトが、以前より優しい笑顔で俺を見たのに、口角が歪むのを禁じ得なかった俺だった。


〔完〕

 
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