long小説

□バイオハザード
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プロローグ



 風呂から上がり、タオルを巻いたままくつろいでいると、携帯電話が鳴った。
「はい」
 女はいつものように、返事だけで答えた。
「ええ……ええ……」
 相手が話す度に、そう相槌を打つ。
「その任務(オーダー)、受けたわ。ブリーフィング・ファイルを後で送って。それじゃ、明日落ち合いましょう」
 そこまで言って、女は携帯電話を切った。そして、ウォークインクローゼットの中に入り、全身が映る鏡の前に立ち、上から下へと視線を移し、「今度のコード・ネームは……」と呟いた。





 私は日本のボランティア団体からフランスのとある施設へ派遣され、慈善活動を行っている。恵まれない子供達に勉強を教えたり、お菓子作りをしたり……。とても楽しい毎日だ。
 街から少し外れた郊外にあるレンガ積みの孤児院は緑と静寂に覆われている。初めてこの場所に来たとき、子供が生活するのにこれ以上の環境はないと思った。
 孤児院の名前は、赤い薔薇の館。ちょっと変わっているかもしれない。私はマーケットに並ぶ野菜を見ながらふと、そう思った。
「……」
 辺りに私の鼻腔をくすぐるいい匂いが漂った。見回すと、つばが直径五十センチ以上はあるだろう大きな白の帽子を大胆に被り、水色と白のツートンカラーのワンピースを着た女性が歩いて来る。顔立ちはアジアン。背は高くまるでモデルのようにきれいな人……。後ろは背中が大きく開いているホルターネック。月並みな言い方をすれば、男性たちの視線は彼女に釘付け。その視線をものともせず、彼女は風を切るように颯爽と通り過ぎて行った。
(やっぱりいるんだなあ。あんな、きれいな人……) 私はため息を吐いた。
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