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□真田十勇士〜真田幸村と上月佐助〜一話
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俺が指差す方には、網の罠に掛かって『キュウ』といわんばかりに伸びた猪がぶら下がっていた。まあ、俺がもしもの時のために仕掛けておいた罠なんだけど。
「おお! その猪よ! いや余計な世話を掛けてしまったな。まこと痛みいるぞ!」
パアアッと顔を輝かせ、馬から降りながら、あらためて俺を見てきた御仁(ごじん)年の頃は、二十二から二十四くらいかな?
「そういえばまだ名乗っていなかったな。某は真田源次郎幸村でござる! そなたの名は?」
「うーん。名乗らなきゃダメ?」
俺がさりげなーくそう訊くと、「なっ! 某が名乗ったのに、そなたは名乗らぬと申すのかっ!?」と、旦那は顔を赤くし、頬をプクッと膨らませ、まるで紙風船のよう。いやはや可愛いね。
「うそうそ。俺は佐助。上月佐助(こうづきさすけ)っていうの。よろしくね」
「佐助と言うのか。よい名ではないか。こちらこそ、よろしく頼む」
「ありがと。ところで、旦那」
「何だ?」
「旦那って、お侍さん……だよね?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
幸村はきょとんとし、首を傾げて不思議そうに訊いた。