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□真田十勇士〜真田幸村と上月佐助〜2
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旦那は捨てられた仔犬のような瞳で、心配そうに言った。いま、頭に垂れた耳が見えたのは、俺の気のせいか?
「……そうか? では世話になったな。食事、まことに旨かったぞ、小夜殿。また礼状とともに贈り物をするゆえ、待っていて下され」
「あの、本当にお礼を戴いてよろしいのでしょうか?」
「うむ、楽しみにしているとよい」
「誠に有り難うございます」
姉ちゃんは頭を深々と下げて、旦那にお辞儀をした。二人の挨拶が終えるのを見計らった俺は「じゃあ、行ってきまーす!」と言い、馬の綱を引いた。
俺が道を下りつつ振り返ると、姉ちゃんは「すべて解っているから」と言わんばかりに、コクッと頷いた。
***
「いや〜昨日のボタン鍋うまかったね〜」
「ああ、まこと旨かった。また食したいでござるな」
「そーだね。ねえ、旦那が好きな食べ物ってなに?」
俺は辺りの気配を密かに確かめつつ、ニコニコしながら訊いた。
「好きなものか? 某が好きなものは、ホウトウだな。甘味ならば、蜜がたっぷりとかかったあんみつだ」