シン
□瞬く星が天に輝いて
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シリウス号に乗船してから、約1ヶ月。
常に揺れている船上での生活にも、なんとか慣れてきた。
でもやっぱり、故郷が恋しくなるときがあって。
そんな時は、夜中にこっそり一人で泣いていた。
今日は満月。
恒例の宴なんだけど、みんなが家族みたいだから余計につらくなって。
こっそり抜け出して甲板の隅で、家族を思い一人涙を流していたら
「お前みたいなガキが一人で泣くな」
そう声をかけてきたのは、同室になったあの人で。
眼帯をした航海士。
引き締まった長身に、女性と見紛うほどの美貌。
隠されていない左目は、漆黒の黒曜石のようで。
その瞳で見つめるだけで、相手を殺せるんじゃないかと思う。
口を開けば辛辣な言葉ばかりを吐く、ドSな性格だけど。
慣れない船上での生活に加え、ここは海賊船。
いつ敵襲が襲ってくるかわからない。
そんな危険から私を守るように、常に側にいてくれる。
「こんな暗闇で船の隅にでもいたら、いつ落ちるかわからないぞ。俺がお前を見てたからいいようなものの…」
そう言いながらも、私の隣までゆっくりと歩いてきて、私の身体が冷えないように自分の上着を私んぼ肩にかけてくれた。
「好きなだけ泣くといい。他の連中には黙っててやる」
そんな言葉と共に、私を優しく包み込む彼の両腕。
私はその優しさが嬉しくて、また涙が溢れてきた。
彼は私の涙の理由を聞かずに、ただ黙って私を抱き締め、頭を撫でてくれる。
私が咳き込むと、背中をさすってくれて。
そうやって、ずっと側にいてくれる彼は、ドSな性格とともにすごく優しさに溢れていると思う。
私が落ち着いた頃を見計らって、優しく私の頭を小突く。
「泣きたい時は、俺に言ってこい。いつでも好きなだけ泣かしてやる。その代わり、俺に隠し事をするな。どんな事も隠すな。隠せると思うな。この俺が誰よりもお前の事を見ているという事を忘れるな。ほら、もう落ち着いただろ?他の連中もお前の事を気にかけているんだ。戻るぞ?」
そう言った彼は、私の手を優しくとり、みんなの元へと連れて行ってくれる。
ああ…たぶん、私はこの人が好きなんだろうな…
ドSで意地悪で、わかりにくい優しさばかりをふりまく、そんな彼への想いに気付いた今日は、特別な日なんだろう…
End.