TOX-B

□HEROINE? HERO!
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*ジュードくんが女装します。苦手な方は、閲覧をご遠慮下さい。





 旅の中継地として立ち寄った小さな農村で、その一風変わった依頼を皆の元へ持ち帰ってきたのはレイアとエリーゼだった。


「生け贄だぁ?」


 宿屋のロビーに全員を集めて依頼の内容を話し始めた彼女達に、アルヴィンが「冗談だろ?」とこぼしながら肩を竦める。

「今時そんなベタな話があるかっての」

「もうっ、本当なんですよ!?」

 アルヴィンの隣にいたエリーゼがぷっと頬を膨らませながら、彼の腕を強く引っ張って一生懸命主張した。

 何でもこの村の奥地に人語を操る程に高い知能を得た魔物が棲み着き、なんと「若い娘を生け贄に捧げろ」と村の人々に要求しているのだという。

 つまりその魔物を退治してほしいというのが今回の依頼というわけだ。

「えぇ〜……大方どっかの変態ジジイか何かを見間違えたんだろ? 仮に本当だとしても、そういうのは『テイルズオブ』何とかっていうような絵本に出てくる勇者様の仕事でしょ」

『「仮に」とは何だ〜! エリーゼはアルヴィンみたいなウソつきじゃないぞー!?』

「!? イテぇ!! おい、何で俺のときはイテぇんだよ。マジで丸焼きにして食うぞ!」

 尚も信じようとしないアルヴィンにエリーゼが飛び掛ったり、ティポが齧り付いたりし始めると、「こらこら……!」と慌ててそれを宥めたレイアが改めていきさつを説明した。

「わたしも最初はアルヴィン君と同じで、まさかと思いながら色々聞いて回ってみたんだよ。でも村の人達はもうどこの子をその生け贄にするかって話で持ちきりになっててさー……」

「ああ、村の方々がなんとなく険悪な雰囲気だったのはそのせいですか」

 ローエンが納得した様子で頷き、綺麗に手入れをしてある白い髭をゆっくりと撫でる。

 魔物にせよ変態にせよ村の人々が困っているという意味では紛れもない事実だということだ。エリーゼはこの村のことをハ・ミルの雰囲気に似ているのだと言って、いたく気に入っていたようだから当然助けたいと考えているだろうし、そんな健気なエリーゼを放っておけるレイアではない。

 ローエンが意見を伺うようにちらりとミラの方を見ると、全員の視線が彼女に集中した。それを受けてもまったく気後れすることなく、ミラが大きく頷く。

「ふむ……何も悪くない村の者同士がそんな風に争わねばならないというのは、実におかしな話だな。私達も魔物か変態かとここで言い合うより、確かめに行って片付けてしまった方が早いのではないか?」

「―――と、あなたが大好きなママは仰っていますが? アルヴィンさん」

 ミラの言葉を引き取り、ローエンが今度はアルヴィンの方を見てにっこりと笑うと、アルヴィンは軽く両手を上げて降参のポーズをした。さすがは指揮者……丸め込むのも上手い。


 斯くして依頼は正式に請け負うこととなり、その場で作戦会議となった。

 いつも通り全員で突っ込めばいいじゃないかとミラは言ったが、それではこちらの動きに気付かれて逃げられたときが厄介だし、それで村に危険が及ばないとも限らないと考えたローエンが『偽の生け贄を用意し、相手を誘き出したところを叩く』というシンプルな作戦を提示して、皆それに賛同した。

 そこで次なる問題はその生け贄役を誰がするのかということ。

「エリーゼ姫でいいんじゃないの?」

「! ちょっと、何言ってるの、アルヴィン。エリーゼにそんな危ないことさせる気?」

 それまで特に異存はなかったのでローエンから意見を求められる以外は黙って成り行きを見守っていたジュードだったが、アルヴィンが何も考えていないような口調で言ったので、さすがにこれには突っ込んだ。

「レイアにするか? まあ確かに一番それっぽい感じもするしな」

「違うよ! ダメだってば!」

 二人共大切な回復役だ。まず何かあった場合のリスクを考えるべきである。

「では私はどうだろうか、アルヴィン」

「え……俺がその魔物だったら、おたくがどーんと待ち構えてるところに突っ込んでったりとか絶対しないわ……」

 ミラが立候補したが、これにはアルヴィンが首を横に振った。ローエンがさり気なくミラには切り込み役をして欲しいからと、それをフォローする。見事な共鳴術技だ。

「仕方ないな……」

 どうやらアルヴィンにはまだ策があるようで、彼はジュードに向けて得意げにウインクを決めながら言った。



「じゃあジュードくんで。」


「は……ええぇッ!?」



 これについて誰も反対してくれなかったことが一番の問題だとジュードは思う。










   ***










「ねぇ、何でこんな格好なの……」

「仕方ないだろ。相手のご指定は『若い娘』なんだからさ」

 ジュードはアルヴィンに手を引かれて歩きながら大きなため息をついた。どうにもこうにも動きにくくて仕方がない。


「いいじゃない、いかにも村娘っぽくて。似合ってるぜ?」


「嬉しくないよ。」


 あの後、抵抗空しくミラ、レイア、エリーゼの三人掛かりで服を剥ぎ取られて、よくレイアにぐにぐにと揉まれたティポが「もうお嫁に行けない……」と呟いている気持ちがちょっと分かったジュードであった―――いや、分かりたくなどなかったのだが。それから本当に村の女の人から譲ってもらったのだという草色のエプロンドレスを着せられ、「似合う!」と目的を忘れて盛り上がる彼女達に『ツインテール』を装備されそうになったところをなんとかレイアがいつも頭に付けているヘッドドレスで勘弁してもらって、今は付き添いに選ばれたアルヴィンと二人で魔物が頻繁に目撃されるという場所を目指して森の中のを進んでいる。

 ブーツだけは自分に合うものを選んで履いていたが、長いドレスの裾が歩く度に足にまとわりついた。足を取られてふらつくとアルヴィンの力強い腕が支えてくれて、なんとか転ばずに済んでいる。

「もうすぐだな。……大丈夫か? ジュード」

「……うん。ありがとう、アルヴィン」

 そうだ。文句を言っている場合ではない。これは遊びではないのだから、しっかりしなければ。ジュードが頷くと、アルヴィンは何も言わなかったが繋いでいる手に少し力を込めた。

 さっきまで軽口しか叩かなかったくせに、やっぱり心配してくれているらしい。


 アルヴィンは最初から自分を囮に選ぶつもりでいたのではないかと、ジュードは思っていた。女性の名前を出してジュードが納得しないであろうことは彼ならわかっていただろう。ただあの時点ではジュードもまさか自分が女装をしてという考えには至っていなかったが、あのまま埒が明かなければきっと同じことを考えて名乗り出ていたはずだ。

 そう、いつでもアルヴィンはジュードが欲しい言葉をくれる。それをずるい男だと感じる時もあるけれど、こうして心配を掛けている時は無理させてしまって悪いなと思った。そしてちょっぴり嬉しくもある。


 しばらく黙って歩いていると、そのうち開けた場所に出た。教えられた場所だ。

 到着した以上口を利くわけにはいかず、ジュードはアルヴィンの手を離すとそのまま一人でゆっくりと歩みを進める。アルヴィンも黙って踵を返し、一旦はその場をあとにした―――既にこの周辺にそれぞれ待機した他の仲間達と合流する手筈になっている。

 まだ何の気配もない。ジュードは歩みを止め、ただひたすらに待つ。


 やがて一陣の風と共にそれは現れた。

 動物達が息を潜め、それまでの穏やかな雰囲気とは一変する。


 正に異形の者だった。大きな牛のようにも見えるが後ろ足だけで立っているような感じで、その表皮はなんだかべとりと泥を塗ったような粘膜に覆われている。

 ジュードは息を飲んだ。自らの身の丈より三倍近くはあろうかという相手を前に、平静でいられる者はなかなかいないだろう。

『この先の村から来た者か……』

 魔物が言葉を発する。不思議な息遣いの、まるで年老いた男性のようなしゃがれた声だった。人語を操るというのはどうやら本当のようだ―――近頃色んな事件に影響されて霊勢の変化が著しいこのリーゼ・マクシアで、生態系にも何か重大な突然変異があったと考えていいかもしれない……ひどく緊張していたが頭ではそんな生真面目ことを考えながら、ジュードは魔物からの問い掛けに黙ったまま頷いた。

 魔物が荒く息をつく。どうやら笑ったらしい。



『大した娘ではないな』


「…………。」



 ……なんだと?

 このあとフルボッコにしてやるから覚えてろ。



 自分は女の子ではないし、だいたいこんな奴になんと思われようが全然構わないが、何となくかちんと来てジュードにしては珍しく毒突いた。無論心の中だけで、だ。

 魔物の腕がジュードに向かって無遠慮に伸びてくる。人間の手を模したそれが顔に触れようとした―――その時、突如として激しい雷撃が魔物を打った。

「ジュード、無事か!?」

「ミラ……! 大丈夫、タイミングばっちりだよ!!」

 魔物が衝撃から立ち直らぬうちに木立の陰から飛び出してきたミラは高々と跳躍し、上空からその巨躯に向けて剣で一閃浴びせると、ジュードの傍らに着地した。


「アゼリアブレード!」
「アゼリアブレード!」


 続けてエリーゼとローエンが術を放つが、すんでのところでそれをかわした魔物は怒りに我を忘れて咆哮し、目の前のミラを振り払うようにその太い腕を叩き付けようとする。しかしミラは微動だにしない。自分を庇おうとしているのだと気付き、ジュードは咄嗟に彼女の背中に後ろからしがみ付くとそのまま地面を転がった。魔物の腕は空を切り、ジュード達のすぐそばの乾いた地面が断ち割れる。

「くっ……ミラ! 僕のことは気にしないで!!」

「しかし―――」

「僕も戦うから!!」

 少しばかり目を回しているミラに手を貸しつつ素早く立ち上がると、ジュードは自分のドレスの裾を掴んだ。


「ああぁぁーッ!!!!」


 もったいない! と、レイアが別の意味で悲鳴を上げるのを無視して、びりびりとそれを膝上まで裂き、半ば無理矢理引き千切るとその場に投げ捨てる。

 ぐるりと辺りを見回してアルヴィンの姿をとらえると、手を上げながら呼び寄せた。

「アルヴィン!」

「おーおー、またいつになく勇ましいねぇ……ていうか、すんごい脚線美。」

「!? ち、ちょっと、どこ見てんの!?」

「み、見てないって。『見える』んだよ。これ不可抗力!!」

「もう、ふざけないで!!」

 駆け着けたアルヴィンから、預けておいた手甲を受け取って手に装着すると、具合を確かめるように拳同士を軽く叩き合わす。


「よーし……行くよフルボッコ!!」


「お、おいおい、どうしちゃったのホント……!」


 アルヴィンがよく言っているセリフを真似してみるとびっくりされたが、構わずに魔物の方へ突っ込んで行くと、アルヴィンも慌てて共鳴して追い掛けてくる。

 まずジュードが拳を振り上げて衝撃波を繰り出すと、続いてアルヴィンも大剣を振り上げて衝撃波を魔物に浴びせかけた。そこでぴたりと呼吸を合わせ、今度は打ち下ろす勢いで同時に衝撃波を放つ。


「魔神連牙斬!」
「魔神連牙斬!」


 魔物の大きな体を易々と飲み込んでしまう程に規模の大きい共鳴術技だったが、それでもまだ魔物を絶命させるには足りなかった。

 ジュードは拳を構え直し、より一層集中力を高めて行く。魔物が苦し紛れに攻撃してきたところでそれを鮮やかに回避しつつ、死角を潜り抜けて一瞬で背後へと回り込む―――得意の集中回避だ。



「殺劇舞荒拳ッ!!!!」



 引き裂いてぼろぼろになったドレスの裾と、腰の後ろで結ったエプロンの大きなリボンを翻しながら容赦なく無数の拳と蹴りを叩き込む。はっと鋭く息を吐き出しながら一際強烈な拳を魔物の腹に向けて突き出し、そのままぶっ飛ばした。

 魔物はどうっと土煙を上げながら倒れる。それっきり二度と起き上がることはなかった。

「―――みんな、大丈夫……って、どうしたの、アルヴィン。変な顔して」

「あ、あ……いや〜……」

 頬に飛び散った返り血を、手甲を外した手でぐいと拭い、ふうと息をつきながらアルヴィンを振り返ると、何故か怯えた様子でびくっと身を竦めた彼は「優等生かぁっこい〜……」と、笑顔を引き攣らせながら呟いた。















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2011/11/21

女装ネタです…見るのは大好きなのですが、いつも自分では滅多に書きません。
今回は……なんていうか…ジュードくんだから???笑


でもやっぱり自分で書くとジュードの強かさを前面に押し出しちゃいました。←
アルヴィンも手を出していれば間違いなくフルボッコですね^^

前半はみんな仲良し!な雰囲気を目指してみましたv



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