TOX-B

□あらゆる戦術をもって恋をする
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* R18です。18歳未満(高校生)の方は、閲覧をご遠慮下さい。一応(笑)バレンタイン仕様となっております。





 「エリーゼとチョコを作ったから、また時間があるときにイル・ファンまで取りに来てほしい」という手紙が届いたとき、アルヴィンは仕事中だったのに思わずにやけてしまった。

 この時季にチョコと言えば、バレンタインチョコしかない。大方ローエンが不在のシャール邸にてドロッセルと果敢に挑戦してはみたものの上手くいかなかったエリーゼが、結局ジュードに泣き付いたのだろう。


「こんにちは」


 すっかり顔馴染みになったタリム医院の受付の女性は、アルヴィンが声を掛けるとすぐに「ジュード先生ね」と軽やかに端末を操作して今日のジュードの予定を調べてくれた。

「……あら? ごめんなさい。今日はジュード先生お休みみたい」

「そうなのか」

「ええ。でも前から決まっていた休みみたいだから急用ができたからとか、そういう訳ではないと思うわ。あなたなら寮の方へ訪ねてもいいんじゃないかしら」

「そうするよ。ありがとう」

 彼女に軽く手を振って受付を離れたアルヴィンは、そのままタリム医院をあとにした。

 ジュードが珍しく休暇とはタイミングが良い。最初の頃はイル・ファンに来たらまず寮の方へを訪ねるようにしていたアルヴィンだが、いつもジュードは研究所に籠っているか診察の手伝いをしているか魔物退治に繰り出しているか…―――とにかくあっちに行ったりこっちに行ったりと忙しそうで、そのうち先程のようにジュードの予定を確認するようになった。

 寮は医学校から程近い。本当は王室お抱えの研究員の寮とやらはもっと広いらしいが、ジュードは未だに医学生時代と同じ小さな部屋で生活している。その方が落ち着くのだそうだ。

「アルヴィン…!?」

 寮に入ろうとしていたところを呼び止められて振り返ると、ジュードが驚いた顔をして立っていた。買い出しにでも行っていたのだろう。大きな買い物袋を両手で抱えている。

「よう」

「ぎりぎりでも良いから、こっちに来るときは連絡してっていつも手紙に書いてるのに……」

 散らかった部屋を少しでも片付けておきたいという言葉通り、狭い部屋には書類と文献が溢れていた。座るところがないのでとりあえずベッドにでも……と思ったが、そこも同じ有り様だった。

「はあ……こんな小難しいモンに添い寝されて楽しいか?」

「うん。夢で良いこと思い付くときもあるよ」

「そうじゃなくてー、ちゃんと休めてるのかって聞いてるんだよ。窮屈だろ」

「大丈夫だよ―――…あ、ここに座ってて。お茶いれるから」

 上に積まれていた本を退けてからアルヴィンに椅子をすすめ、ジュードはすぐそこの小さなキッチンへと向かった。

 ジュードの横顔を見ながらアルヴィンは小さく息をつく。

 以前なら「ちゃんと休んでる?」「無理しないで」と言われていたのは自分の方だったのに。ジュードは着実に大人になり、使命感に駆られて毎日過ごしている。それこそ無理するなと言うアルヴィンの手を振り払うように。まるで自らの身を削るように。心を燃やすように……だから休みもほとんど無い。それでも相変わらず優しい声音で大丈夫と答えて微笑むのだ。

 何だか寂しい。でもそうは言えなかった。きっと自分も同じようにジュードに寂しい思いをさせてきた。

 あの時―――共に旅をしていた頃、ジュードの気持ちを信じて、その手を取っていたら今はもう少しだけ違っていたのだろうか。

「はい、どうぞ。ローエンが淹れたやつみたいに美味しくはないけど」

「十分だよ」

 紅茶が注がれたカップを受け取ってひと口飲むと、体が内側から温まってほっとした。

 今が不満な訳ではない。ただジュードが愛おしくて、それ故に心配が尽きないのだ。

「そうそう、これがエリーゼからのチョコだよ」

「お、サンキュー」

「『アルヴィンなんかチョコをいーっぱい食べて太っちゃえ』だってさ」

「あらまあ、お姫様らしいコメントですこと」

「…………」

「…………」

「……何?」

「え……」

「え?」

「ジュードくんからは?」

「どうして僕がアルヴィンにあげなきゃいけないの??」


 そういう展開ですか。


 ジュードには自分からアルヴィンにバレンタインチョコを贈るなんて考えは無かったらしい。

「おい……おいおい、マジかよジュード。俺のわくわく返せ! 詐欺だろこんなの! チョコやるやる詐欺!!」

「何訳わかんないこと言ってるの、アルヴィン……エリーゼに失礼でしょ」

 もちろん、エリーぜからのチョコは嬉しい。しかし当然ジュードからも貰えるものだと思い込んでいたものだから痛かった。

 アルヴィンが勝手にショックを受けて落ち込んでいるのを見てジュードは呆れていたが、ふと席を立つと戸棚から何かを取り出してすぐに戻ってくる。

「……何だよ?」

 透明な小瓶。それいっぱいに入っている液体もまた無色透明だった。


「気持ちよくなる薬。」


「! ッゲホ……! はっ……は!? は!?!?」


 飲み込みかけていた紅茶が勢い良く喉を逆流してきてむせた。あまりにあっさりと告白されたので一瞬聞き間違えかと思ったが、ジュードは「だから、媚薬。」と殊更丁寧に説明してくれた。

「え、えーっと……? どういうことかな、優等生」

「僕だってアルヴィンにチョコ、上げたかったけど……そんなの女の子みたいだし。それに、アルヴィンは他にもたくさんもらうんだろうなと思って」

 それに負けないように。埋もれてしまわないように。恋人―――つまりジュードだけができる贈り物として、これを用意しましたと、そういう事らしい。

 アルヴィンは少しばかり頭が痛むような気がして額を押さえた。

「や、あのさ、こんなモン使わなくたってお前……だいたいどこで仕入れて来―――」

「だからアルヴィン飲んで。」

「て、俺が飲む方かよ!?」


 どういうことだ。思考が追い付かない。


「そうだよ? 僕が気持ち良くなってどうするのさ」

「いや、いやいやいやいや……」

 ずいと目の前に瓶を差し出されて困惑していると、ジュードが「今そういう気分じゃない?」なんて言いながら小首を傾げたりするものだから堪らない。まさかこれも計算のうちだったらどうしよう。怖い。ジュードくん怖い。

「……わかったわかった」

 しかしやりたくない訳が無い。ありがたく頂戴することにした。アルヴィンは瓶を手に取ってコルク栓を引き抜くと、中身を半分程一気に煽った。

「あ。そんなに飲んじゃダ―――」

 ダメだよ。と、椅子から腰を浮かせたジュードの肩を抱き寄せて、そのまま口付けた。口の中に溜めていた薬を流し込んでやるとジュードは瞠目して暴れようとしたが、後頭部を押さえ込んで一滴も逃さないようにする。

 ごくりとジュードの喉が鳴ったのを確認してから離すと、薬のせいかアルヴィンの口の中も痺れるような熱さを覚える。また随分と強烈そうなのを用意したもんだ。

 舌なめずりして笑うと、真っ赤になったジュードに頭を叩かれた。










 剥れるジュードを狭いベッドに運んで程無く薬の効果は現れた。まだ前戯の最中であったにもかわらずアルヴィンが敏感な個所に少し触れただけで達してしまい、そこからは狂ったように早くとせがんできたけれど、それを焦らして楽しみ―――それにいくら何でも傷付けるようなことはできないし、ようやく本番を迎えようかという頃にはもうジュードはただただ快楽を享受しているように見えた。

「あ…ぁ、ああぁっ……ぁっ!」

 アルヴィンの熱が体の奥を押し開いた瞬間ジュードはまた達してしまったが、構わずに何度も突き上げる。

「いやあぁっ、あ…んん、ァ…… アルヴィン、アルヴィっ…あるびん……」

 まったく力が入ってないふにゃふにゃのジュードの体を好きなように楽しむ。足を大きく広げさせ、腰を押し付けて中をかき混ぜるように動くと、ジュードは悲鳴を上げて涙を流した。感じ過ぎて辛いのだろう。


「あるびん…っ」


 甘い声に名前を呼ばれる。それだけで優越感を覚えた。

「かわいい、ジュード……かわいい」

 自分の声もひどく掠れていることに、アルヴィンは初めて気が付く。はっと短く息を吐くのに乗せて何度も何度もかわいいと囁いて、汗と涙に濡れた小さなジュードの顔に口付ける。

 とにかく愛しくて堪らなかった。

「ン、んー…っ、ぁ…あつい、あつい……」

「おいおい、ちょっと効きすぎじゃないの? 大丈夫か??」

 想像以上に薬が効いている様子に、さすがに心配になって問い掛けると、固く閉じていた目をゆるゆると開いてジュードがアルヴィンを見上げる。その艶々しい目元にぐっときたが、そこは何とか堪えた。

「―――…っ」

「え?」

 ジュードが蚊の鳴くような声で何か言ったが、上手く聞き取れなかった 。自分の鼓動が煩い。聞き返すと、ジュードは赤い顔を更に赤くしながら自棄になったようにはっきりと言った。


「も、もっと動いて……っ」


「…………」


 ああ、ダメだ。 気遣うなんて、もうできない。





「あ、ァッ…ああ、ん……あ! ぅ、また……! またいっちゃう…っ」

「は…っ、く……」

「や、やぁ……!!」

 興奮のあまり胴震いしたジュードが何度目かの絶頂を迎えた。さらりとした淫が手を汚す。それでも尚アルヴィンは律動を止めることなく、今度はジュードをうつ伏せにして腰を抱き寄せて後ろから穿つ。

「ひ……ンっ、ぃ…!」

 ここにして強いられた体位にジュードは弱々しく頭を振ったが、今や自分の方が止まれなかった。

 ジュードの腕を掴んで上体を少し上げさせると、殊更勢い良く腰を打ち付けた。

「! ―――アッ……うあ、ぐッ ……だめ、っ…ふか、ふかい…ぅっ」

 ダメ、ダメと譫言のように繰り返し言いながら揺さぶられるジュードの口の端から唾液が糸を引きながらシーツの上に零れる。不思議なことに、それがひどく色っぽかった。

「ジュード…っ、ジュード……」

「ああぁっ、アルヴィン……! い、や…っ」

「ホントにいや? ずっといきっぱなしで、すごいんだけど」

 低い声でそう囁いただけでも感じたのか、ジュードが身を竦めた拍子にアルヴィンの熱をきゅっと締め付けてくる。

「はっ…! は、あ……ぅ…」

 アルヴィンが達してすべて中に注ぐと、ジュードはどこか満足げに熱い息を吐き出した。










   ***










「はあ……バレンタインってこういうモンだっけか?」

「アルヴィンが無茶苦茶するからだよ……」

 軽くシャワーを浴びて、何故か言い出しっぺのジュードに叱られながら色々と後始末したあと綺麗に整えたベッドに並んで寝転び、微睡みの中でぽつぽつと言葉を交わす。ジュードは相当消耗したようで、今にも眠ってしまいそうだった。

「……大丈夫か?」

「うん……? へーき」

 手探りでジュードの手を握るといつもより熱く、火照っている感じだった。薬の効果はとうに切れていたが、激しい行為に及んだせいで少し熱が出ているのかもしれない。

「……ねえ」

「んー?」

「もっとくっついて寝たい」

「……へいへい。ジュードくんは俺をドキドキさせて寝かせないつもりか?」

「ふふ、それほんと??」

 ジュードの方にごろりと寝返りを打って、その体をそっと抱き込む。寝間着の薄いシャツ越しに高い体温がじわりと伝わってきた。

 いやはや、これしきのことで本当にどきどきしてしまうのだから参る。

「ジュード」

 呼び掛けてみたが、ジュードはもう眠ってしまっていた。その寝顔を眺めながら、アルヴィンは微笑む。



 恋人だからこそ、ほんのひと欠片のチョコでも十分だったのに。















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2012/02/14

無理矢理間に合わせた!笑
すごく急いで仕上げたので時間あるときに少し修正したい…;


でも書き終わってみたらバレンタイン関係ない気がしてならない。
…記念!記念ということで!ね!!←

アルジュほんと好きだよおおぉぉ…!





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