novel
□甘酸っぱいを頂戴
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オレンジ色に輝く夕焼け空。
辺り一面に漂う果実の香り。
一行は疲れた身体を休めるために、ここ『ハ・ミル』で少しばかり休憩をとることにした。
しかし、エリーゼのちょっとしたわがままが、休憩どころではない一日を生み出したのだった…。
「あの…」
「ん?なんだ?エリーゼ姫」
「アルヴィン、甘酸っぱい…ください…」
「?」
「…甘酸っぱいをください!」
アルヴィンは頭にはてなマークを浮かべながら考える。
しかし、その『甘酸っぱい』が何なのかは全く分からない。
「甘酸っぱいって何だ?」
「そんなことも分かんないのー?ねー!エリー?」
「はい、甘酸っぱいは甘酸っぱい……です!」
困ったなぁ、と頭を掻きながら苦笑いするアルヴィン。
その横で必死に『甘酸っぱい』をおねだりするエリーゼとティポ。
エリーゼとアルヴィンを除くジュード達一行は、新しい武具の調達に出掛けてしまったので助けを借りることも出来ない。
数分後、ハッと何か閃いたらしいアルヴィンが口を開く。
「分かった!甘酸っぱいものが欲しいんだよな?」
「はい」
「お姫様、ちょっと待っててくれるか?」
「え?あ、わ、わたしも一緒に行きたい…です」
「行きたいー!!」
「了解、んじゃちょっくら出掛けますか」
『甘酸っぱい』が何なのか分かったらしいアルヴィンが、軽快な足取りで進んで行く。
エリーゼと彼女に抱えられたティポも彼の跡について行く。
「到着!」
そう言って着いた場所は…
ハ・ミルの村にある、ナップルの木の前。
「いい香りだな」
「…」
「エリーゼの言ってた甘酸っぱいってこれだろ?」
アルヴィンは“ほら”とナップルの実をエリーゼに渡す。
しかしエリーゼはそれを受け取ろうとはしない。
「…」
「食わないのか?」
「…違います」
「ん?」
「これじゃありません!!」
「ブッブー!大間違い〜!」
「なっ!?違うのかよ!」
エリーゼの求める『甘酸っぱい』は残念ながら、ナップルではなかったようだ。
「じゃあ、これか?」
次は当たってるだろうとアルヴィンが手渡したのはパレンジ。
とても良い香りがする果物だ。
「…」
「はっずれー」
またしても不正解。
アルヴィンが不正解する度に、エリーゼの顔はどんどん不機嫌になっていく。
「ナップルでもパレンジでもない…か。他に甘酸っぱいものなんてあったか?」
「ふんふふ〜ん♪アルヴィンは〜お馬鹿でクズでヘンタ「お前は黙ってろ!なぁ姫、何かヒントはないのか?」
「甘酸っぱい……です」
エリーゼは『甘酸っぱい』が何なのかは言おうとせず、ただそれを求めるばかり。
「それじゃあ分かんねぇんだよなぁ」
「…ア、アルヴィンの…甘酸っぱい……です」
「んもー!エリーはアルヴィンにちゅ「ティポ!だめ!!恥ずかしい…」
エリーゼの求めていた本当の『甘酸っぱい』がティポを伝って告げられる。
「あー、分かったかも。姫の言ってた『甘酸っぱい』」
アルヴィンはエリーゼが求めていた本当の『甘酸っぱい』に気付く。
「エリーはアルヴィンにちゅうして欲しいんだよねー?」
「///////」
そう、エリーゼの求めていた『甘酸っぱい』とは、アルヴィンからのキスだったのだ。
「……アルヴィンからの…甘酸っぱいが欲しかったんです…///」
「…すぐに気付いてやれなくてごめんな」
「…」
「エリーゼ姫、今から甘酸っぱいをプレゼントしますね」
アルヴィンはエリーゼの唇に触れるだけの優しいキスを落とす。
「//////」
カアァァとみるみるうちに赤く染まるエリーゼの頬。
しかし、エリーゼは気付いていないが、彼女にキスを落としたアルヴィンの方が真っ赤に染まっていた。
まるで、ハ・ミルの夕焼け空のように。
2人にとって、どんな果実よりも甘酸っぱい瞬間だっただろう。
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