novel
□ギルドの愉快な掟G
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「よぉ、ルーシィ」
向こうから半裸の男が声を掛けてきた。グレイだ。
レビィちゃんの所に行きたかったんだけどなぁ…。
「…グレイ、上着取りに行ったんじゃなかったの?」
「あ?俺のギルドマークは右胸にあるからな」
「…そうだったわね」
「ところでさ、ルーシィ、俺とギルドマーク合わせねぇか?」
「いいわよ」
“いいわよ”…?
簡単に言っちゃったけど、グレイのギルドマークって右胸…。
あたしがグレイの右胸に触れるってこと!?
ドキドキドキドキ…
想像したら顔が熱くなってきた。
は、恥ずかしい…。
でも、グレイは仲間なんだし当然…よね!!
「どうした?ルーシィ」
「あっ、ごめんごめん。早速やりましょ」
「おう」
あたしは少し緊張しながらも、グレイの右胸に手の甲を合わせる。
・・・?
「おっ、光り出したな」
「ねぇグレイ、心臓速くない?」
「は!?そ、そんなことねぇよ!!//」
いや、明らかにグレイの心臓の鼓動は速くなっている。
“もしかしてグレイも緊張してる?”
あたしはこう思うとなんだか嬉しかった。
「ルーシィ、そろそろ手…///」
「あっ!ご、ごめん///」
お互いは顔を見合わせると、すぐに視線を逸らした。
グレイの顔が赤い…。
あたしも相当赤くなっているだろう。
だってこんなにも心臓がドキドキしているから。
「ミ、ミラちゃんのアイデアってすげぇな」
「そ、そうね」
気まずい。気まずすぎる。
どうか空気よ変われ!!
そう思った瞬間――
「恋敵〜…」
負のオーラを纏いながらこちらを恨めしそうに見つめる者が一人。
あたしを勝手に恋敵だと思い込んでいる、ジュビアだ。
彼女のグレイへの愛はとてつもない。
ちょっと悔しいくらいに。
たしかに空気は変わった。
ものすごい変わった。
でも、こういう変わり方を望んだ訳じゃないんだけど!?
何か嫌な予感がしつつも、少しばかり“助かった”という気がしたことに変わりはない。
「グレイ様とマークを合わせたんですよね?」
「そ、そうよ」
「やっぱり!ルーシィもグレイ様を狙ってる!!」
「だから違うって!」
「グレイ様、ジュビアとも…マークを合わせませんか?///」
「おうよ」
…ん?
グレイのギルドマークは右胸で、ジュビアは左もも…
何か心の奥底で、チクリと針を刺されたような感覚が沸き起こる。
「おい、合わせねぇのか?」
「ジュ、ジュビア、グレイ様のむ、胸に太ももをみみみ密着…密着してその後にあ、あんな事をす、すするなんて…///」
「どこまで想像してんのよ…」
“そんなこと、ジュビア幸せすぎて出来ませんっ!”なんて言いながら、ジュビアはその場に倒れてしまった。
あたしは肩の荷が一気に降りたのと同時に、ホッと一つ息を吐いた。
なんだかちょっと嬉しいな、なんて思ってる自分がいる。
ジュビアの言う通り、あたし達は恋敵なのかもしれない。
「おい!ジュビア大丈夫か!?」
「グレイ様〜…」
スースーと寝息を立てるジュビア。
どうやら寝てしまったようだ。
「寝ちゃったみたいね…」
「そうみたいだな、なぁルーシィ」
「ん?」
「良いクエスト見つけたんだ。報酬は80万ジュエル」
「80万っ!?貯めてた家賃払えるじゃない!!」
「これから2人で行かねぇか?」
嬉しかった。もちろん報酬が高いっていうのもあるんだけど、何よりグレイがあたしを誘ってくれたから。
グレイから差し伸ばされた手を取る。
「うんっ!行こう!」
この掟の考案者―ミラが、微笑ましそうにルーシィとグレイを見守っていることに、2人は気付くはずもない。
-------------End-------------
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