ハナズオウ
□嫉妬
1ページ/1ページ
「悪いことは言わないから今談話室に入るのはやめとけ。」
「そうよアシュレイ!私と広間で紅茶でも飲みましょう!」
談話室前で私の前に立ちはだかるのはオリオンとヴァルブルガのブラック二人。
こんなことをするなんて珍しいにもほどがある。
「お邪魔よ二人とも。私の両手に抱えてる本が見えないのかしら。」
「わかった、荷物は俺が持とう。」
「そういう問題じゃないのよオリオン。私はこの本を早く読みたいのよ。」
「私とその本どっちが大事なのよアシュレイ!」
まるで仕事を優先する夫ね、と笑う。
「いいからおどきなさいな。」
そう言って私は本を抱えたまま談話室へと入る。
後ろから「どうなってもしらんぞー!」とオリオンが叫んでいるが無視だ、かまってなんていられない。
さて、どこで本を読むか、部屋で読むのも悪くはないが暖炉前のソファが空いていればそこで、と思い視線をむければ難しい顔をしているアブラクサスと目があった。
私に気づいたアブラクサスは嘘だろと言いたげに手で額を覆ってこれまた難しい顔をしている。
今日はなんなんだ、とこちらも難しい顔をして返す。
よく見れば向かい側にはリドルと思われる後頭部が見えた。
リドルと何かあったのかと近づいてみれば、
あろうことかリドルはソファの上で女と仲良く腕を組んでこれまた楽しそうに話しをしているじゃないか。
女は私の視線に気づきニコリとまぁ勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ごきげんようリドル、アブラクサス。」
「やぁ、アシュレイ。」
普段通りのあいさつを返してくるリドル。
私たち二人は談話室や他人がいるところではそっけない関係である。
「アシュレイ…!そうだ君に少し話が、」
「その話なら後で聞いてあげるわ、アブラクサス。そうだわ、これ預かっててちょうだい。」
抱えていた本をすべてアブラクサスの上に置くと彼は口を噤んだ。
笑みを作り直して私はリドルと隣の彼女さんの方へ顔を向ける。
「リドル、悪いのだけど少し立ってくださらないかしら。」
「どうしたんだいアシュレイ?…ちょっと離してね。」
組んでいた女の腕をほどき立ち上がるリドル。
隣の女はそれはもう残念そうに手を離した。
「歯、食いしばってちょうだいね。」
「…は?」
綺麗に結ばれた緑と銀の刺繍のネクタイを掴み引き寄せる。
予想外の行動だったらしくリドルは簡単に私に引き寄せられた。
私は右腕を振り上げリドルの頬にむかっておもいっきり振り下ろす。
そうすれば談話室内に鋭い音が響く。
談話室の中が静まり、みんながみんな音の原因である私とリドルに注目する。
「…はぁ?」
しばらく、とは言っても一瞬何が起きたかわかっていなかったリドルが目を赤くしながら私をにらむ。
「これは…なんのつもりだい。」
「それは私のセリフだわ。反対の頬もいかがかしら。」
ビリビリと痛む右手をふりながらもう一発をすすめれば彼はその手首をつかんできた。
「2人で話そうか。」
「えぇ、そうしましょう。」
リドルに引かれながら談話室を出ると後ろからアブラクサスとオリオンの言いあってる声が聞こえた。
「オリオン!絶対に入れるなといったろ!」
「しかたねぇだろ!?あいつが俺等の言う事聞くと思うか!!!」
「ここならいいだろ。」
小汚い空き教室に連れてかれ厳重に防音魔法に鍵魔法をかけるリドル。
右手首を見れば掴まれていた場所は赤くなっていた。
「それで、何のつもりだい。」
赤い目が私をにらみつける。
しゃべらない私にしびれを切らしたのか壁へと追い込まれた。
「誰よ、あの女」
やっと絞り出した質問を聞けば彼はそんなことかと言いたげに
「誰って…彼女は1つ上の」
「そうじゃないわよ!貴方とどんな関係なのか聞いてるの!」
「あぁ、そっちね」と言ってクツクツと笑うリドル。
私の反応がよほど満足いったのか先ほどの怒りは感じられない。
「君が思ってるような関係じゃないさ。今朝彼女に告白されてね、前向きに検討させてほしいという事を笑顔で伝えたら何を勘違いしたのか…。」
「それ貴方が悪いじゃない!何よ、昨日私が好きだって言った時は平気な顔で『ごめんね』って言ってキスしてきたくせに!?」
「妬いた?」
「誰がっ…」
誰が妬くものかと言おうとすれば言葉につまる。
「そうよ、悪い?」
私だって人前でリドルのそばにいたい。
人前で好きだ愛してると言ってリドルは私の物だと見せつけてやりたい。
「いいや、悪くないよ。だからって人前で僕を殴るのはいただけないな。」
「…ごめんなさい。」
今更自分がしてしまったことを思い出し赤くなってしまったリドルの頬に触れる。
熱くなったそこに触れると申し訳なさと恥ずかしさ、自分の醜さに涙がこぼれだしてきた。
「本当の事を言うとね、君が怒ったところを見たかったんだ。」
「…はぁ?」
泣いたままそれを聞き返せば彼は私の右手首にキスを落とす。
「アシュレイ、随分とブサイクじゃないか。」
そんなこと、生れてはじめて言われた。