再録

□人の恋路を邪魔するものは
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 カリカリと書類を処理していると、窓から黄色い毛玉が飛び込んで来た。

「お帰り。何か食べるかい?」

 訊ねると毛玉はフルフルと首を振る。

「イラナイ。オナカイッパイ」

「また、何処かで食べ物を献上されてきたのかい?」

 正直あまりこの鳥が外で食事をしてくるのは好ましくない。
 何故だか煩い群れに絡まれる事の多い自分の傍にいるこの鳥に、害を為す輩がいないとも言えないからだ。


 自分は並盛の風紀を守っているだけなのに……。


 雲雀はそっとため息をついた。

「ケンジョウ? クッキー、ツナヨシ、モラッタ!!」

「ツナヨシ? 沢田綱吉の事かい?」

 だったら大丈夫だろう。あの草食動物は間違っても、自分への当て付けに動物に害を為す事はない。

 雲雀はくすぐるように鳥の首の辺りを撫でる。

「ヒバリ! ヒバリ!!」

「何? 嬉しそうだね」

「ヒバード、ツナヨシ、リョウオモイ!! ラブラブ!!!」

 何やらまた妙なボキャブラリーが増えている。
 いや、今の発言自体がおかしくなかったか?

 それを裏付けるように黄色い鳥は繰り返す。

「ツナヨシ、ヒバード、ラブラブ!!!」

 今度は羞じらう乙
女のように後ろを向き、モジモジするという小技付きだ。
 中々、芸達者な鳥だ。

 暫く後ろ向きにモジモジとしていたかと思うと、ピタリと動きが止まった。

「……チュー」

「何?」

 鳥が急にこちらを向いた。

「チュー」

「?」

 全く意味がわからない。
 どうやら表情に出ていたのだろう、小鳥は何故わからないんだ、とばかりに小さな足をバタつかせた。

「ツナヨシ、ヒバード、リョウオモイ。ラブラブ、チュースル」

「チュー」

 そう言うと鳥はつぶらな瞳を閉じ、必死な様子で爪先立ちになった。

 少しの間、その状態が続いたかと思うとパチリと瞳が開かれた。

「イッテクル」

「は?」

「ツナヨシ、チューシテクル!!」

 言うが早いが、その小さな体のどこにそんなパワーがあるのかと思う程、物凄いスピードで換気のため開けていた窓から飛び去って行った。

「……」

 いつの間に手にしていたのだろう、雲雀は愛用のトンファーを握り締めるとユラリと立ち上がった。




「……沢田綱吉、咬み殺す」



 後に草壁哲矢は語った。

 黒いオーラを身に纏い、悪鬼の形相で応接室を出て行く風紀委員長をただ、ただ見守る事しか出来なかった、と。







 沢田綱吉、死ぬ気の鬼ごっこ開始まで後、五分。












あとがき

どうしても書きたかったんです、嫉妬に燃える風紀委員長(笑)

2009.11.05

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