D.Gray-man

□第6話 覚悟
1ページ/8ページ






 アクマを救う為に、アクマと戦う。



 それが、僕が僕に定めた戦い。



 でも、立ちはだかってきた相手が『アクマ』じゃなくて『人間』だった時。



 僕は、どうすればいいのだろうか?





 * * * * *





 嗚呼……見えざるその腕で首を絞める……
《夢幻影》壊れゆく自我の痛み……




 自分しかいない部屋に、小さな歌声が響く。
 未来は全く知らないはずなのに、何故かその歌は自然と唇から紡がれていく。

 それが、すごく不思議で、少し怖かった。



 狂えぬ酔いは屋根裏の小さな居城を転げまわる……
 嗚呼……見えざるその腕の灼ける痛み……




 ガチャ



「……聞き慣れない歌だな」


 部屋に入ってきたアスカが、ふと呟く。
 彼女が何か歌っているのはいつもの事なのだが、今の歌は初めて聞く。
 すると未来は歌をやめて、アスカに笑いかけた。


「タイトルは知らないんだけど、浮かんでくるの。何か懐かしくて……」


 その言葉にそうか、と頷くと、アスカは車椅子を押しながら中に入ってきた。


「あ! 持ってきてくれたんだ!」
「足まだ折れてんのに『外出たい』なんて言うから、医務室の人達が引っ張り出してきてくれたぞ」
「わーい」


 ベッドに車椅子を近づけ、点滴を外す。
 アスカは未来を抱え上げると、そっと車椅子に座らせた。

 歩けないにしても3日ぶりに外へ出られる事が嬉しいのか、未来の顔には笑みが浮かんでいた。


「で? 外出たいってどこ行きてぇんだよ?」
「アレン君とリナリーのお見舞い! あとミランダさんにも会いたい!」
「はいはい、んじゃ行くぞ」


 アスカが車椅子を押して部屋を出る。
 リナリーは未だに目覚める気配がない為に、まずはアレンの部屋へと向かう。


「ねーアスカ、やっぱり歩いちゃダメ?」
「駄目だ。両足とも折れてんだから大人しくしとけ」


 きっぱりと断られ、未来が頬を膨らます。


「骨折したぐらいで皆心配し過ぎだよ!」
「おっかしいなー。医療班の話だと同じ個所が2回折れたような骨折だったって聞いたんだけどなー」
「うぐっ……」
「どうせ治りかけてた所で無茶したんだろ? こういう時ぐらいはじっとしろって」


 頭を撫でられて未来は渋々頷く。
 その時だった。


「……未来ちゃん?」

 向かいから黒髪の女性が小走りでやってくる。
 誰かわかった未来は、車椅子の上で大きく手を振った。


「ミランダさん!」
「も、もう動いて大丈夫なの?」
「うん。まだ足はくっつかないけど、それ以外はもう大丈夫!」


 心配するミランダに、未来はあえて明るく答える。
 けれど彼女の表情は、曇ってしまった。


「……やっぱり、私があの時、ちゃんと発動していれば……」
「ミランダさん」


 落ち込むミランダの手を、そっと取って撫でる。
 包帯まみれの手が、ピクリと動いた。


「ミランダさんがあの時助けてくれなければ、私達皆殺されてた。
 ミランダさんが助けてくれたから、私は今ここで笑ってられるんだよ」


 包帯の上から傷跡をなぞり、未来は満面の笑みを見せた。


「ありがとう。私達を助けてくれて。これからもよろしくね」


 途端、ミランダの眼から大粒の涙が零れる。
 膝が折れ、未来に縋りつくようにして、ミランダは本格的に泣き出してしまう。

 未来はアスカの苦笑を浮かべると、ミランダの背を宥めるように撫でる。

 それからしばらくの間、ミランダが落ち着くまで背中を撫で続けていた。





 * * * * *
 Song by『見えざる腕』Sound Horizon
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ