Symphonia

□第8話 天使の代償
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 水の封印を解放し、スピリチュア像を手に入れた一行は、ハコネシア峠の収集家にそれを渡す事が出来た。
 約束通り『再生の書』を見せてもらう事になり、リフィルとコレットが見る事に決まった。
 天使言語という古い言葉で書かれた書には、神子スピリチュアの足跡が確かに刻まれていた。



『荒れ狂う炎、砂塵の奥の古の都にて、街を見下ろし、闇を照らす』
『清き水の流れ、孤島の大地に揺られ、溢れ、巨大な柱となりて空に降り注ぐ』
『気高き風、古き都、世界の――巨大な石の中心に祀られ、邪を封じ聖となす』
『煌めく――、神の峰を見上げ、世界の柱を讃え、――古き神々の塔の上から――ふたつの偉大なる――』



 長い年月に所々傷んではいたが、何とか封印の手がかりを得る事が出来た。
 その中の3つ目、恐らく風を司る封印がアスカード遺跡という場所にあるのではないかとリフィルが推察した。
 それを頼りに一行はハコネシア峠を越え北西のアスカードという町に向かった。


「風が気持ちいいわね〜」


 柔らかな風が未来の髪を撫でる。


「本当、気持ちいいね〜」


 コレットも嬉しそうにプラチナブロンドを指で梳く。


「アスカードもこんな感じなのかな?」
「楽しみだね〜」


 少女2人がのほほんと笑い合いながら、ようやくアスカードへと足を踏み入れた。

 アスカードは崖に沿って作られた町で、階段や橋で建物を繋げている不思議な町だった。
 崖の下は断崖絶壁となっており、下に落ちたらひとたまりもないだろう。
 だというのに、街の人々は特に気にした様子も無く崖っぷちを歩いているのだが。

 そして町の奥の方に、長い石階段が見える。
 神社のような長い階段を見て、未来は首を傾げた。


「あそこに何かあるんですかね?」
「ああ、確かアスカード遺跡の石舞台がここにあるはずだ。行ってみよう」


 いつの間にか男口調になっているリフィルに従い、石階段を登っていく事に。
 明らかに年代が違う作りのそこを登り切れば、だだっ広い場所に見事な石舞台が鎮座していた。
 大きく荘厳で、恐らく何かの儀式などで使われたのだろう。
 あまりに大きく立派な石舞台に、未来はしばし呼吸を忘れて見入った。


「おお、アスカード遺跡だ……」


 隣でリフィルも感嘆の声を上げている。
 しばし石舞台に見入った後、くるりとロイドを振り返った。


「ロイド。この遺跡の歴史的背景を述べよ」
「え、えっ。えっと……」


 わからずしどろもどろになるロイドを横目に、ジーニアスが静かに息を吐いた。


「クレイオ三世が一週間続いた嵐を鎮める為、風の聖霊に生け贄を捧げる儀式をとりおこなった神殿」
「……です」
「ああ……この5年間貴様は一体何を習ってきたのだ!」


 ジーニアスの説明を引き継いだロイドにリフィルが嘆く。


「体育と図工と……」
「もういい!」
「ロイド君……」


 かつての自分を見たような気がして、未来はちょっと気が遠くなった。
 一方ロイドに呆れたリフィルは石舞台をもう一度じっくりと眺める。


「素晴らしいフォルムだ。この微妙な曲線は、風の聖霊が空を飛ぶ動きを表すとされている。
 さらにこの石はマナを多分に含んでいるといわれ夜になると……」


 そのまま長々と説明を始めてしまったリフィル。
 こうなると止まらないのだろう、ジーニアスが嘆くように肩を竦めた。
 クラトスは早々にその場を離れ、真面目に聞いているのはコレットのみ。
 ロイドと未来はゆっくりとそこから離れて、石舞台をぐるりと見回してみた。





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