短編

□君の温もりが消えた後
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朝、目が覚めたら喉が痛かった。



「ん゛ー、喉痛い」



しかも体も怠い。
(風邪、引いたかな?)
リビングに行って体温計を取り出す。
しばらくしてピピピと機械音が鳴る。



「…38.1℃」



ついにやってしまった。




ふと時計に目をやると長い針が4を指していた。



「お弁当、作らなきゃ」



このお弁当はあたしの分じゃなくて、隆也の分。
前に隆也のお弁当を作った時においしかったらしく
あたしにお弁当を作ってほしいと頼まれて、週に1回、お弁当を作るようになったのだ。



「えーっと、卵卵っと」



冷蔵庫から卵を2つ取り出して菜箸で卵をとく。
あたしは甘い卵焼きが好きだけど、隆也は甘いのが好きではないので、お砂糖は少しだけ。卵をフライパンに流し込むとジューっといい音がした。



料理はどちらかと言えば好きな方で
ましてや隆也から作ってほしいなんて言われたら喜んで作る。
卵の他にも、簡単な野菜炒めとかお肉とか焼いてテーブルに置いた。
これでも、栄養を考えて作っている。



最後にあたしより大きいお弁当箱におかずを詰めて蓋をする。
(隆也に連絡しなきゃ)



あたしの部屋から携帯を取り出して
あ行を開く。
野球部は毎日朝練があるから、さすがにもう起きているだろう。



おはよう。
学校に行く前にあたしん家寄って。



ただそれだけ打って送信した。
隆也はやっぱり起きていて
わかった と4文字だけのメールが届いた。
(隆也が来るまで、少し寝てよ)
パチンと携帯を閉じて部屋に戻った。



携帯のアラームとは違うメロディーが流れてるのが耳に届き、目が覚めた。
電話を知らせる音で携帯を見ると、そこには阿部隆也の文字。
慌てて電話に出た。



「は、はいっ」

「寝てたのか?」

「ごめん」

「チャイム鳴らしても出てこねーし」

「…はい」

「寄れっつったの名前だろ」

「ごめん。今開けるね」



まだ重い体を動かして部屋を出る。
リビングのテーブルの上にあるお弁当を持って玄関に向かう。
ガチャリと玄関を開けると隆也がいた。



「ごめん」

「いや、いいけどさ」

「はい、お弁当」



そう言ってお弁当を差し出す。



「え、なんで今?」

「風邪、引いたみたいでさ」



熱もあるのって言ったら、おでこにあたしじゃない誰かの手があてられた。



「…とりあえず入れ」



うわっ、この人絶対に怒ってるよ。
いつもより声が低かったよ。
あたしは後ずさったように家に入った。



「こんの馬鹿っ!」

「うっ…」

「お前、風邪引いてんなら寝てろ。弁当作ってる場合じゃねーだろ」

「ご、ごめんなさ い…?」

「はぁ、お前判ってないな」

「…だって、あたしが作らなきゃ隆也、お昼食べられないじゃん」

「購買とかあんだろ」

「あたしのお弁当食べたいって言ったの、隆也だよ」

「そうだけど、お前に無理してほしくねーし」

「…?」

「…だから、自分の体大切にしろっつってんの」



そう言って腕を引っ張られて
隆也の腕の中に納められた。



「弁当、ありがとな」

「えっ?」

「今度から体調悪ぃんなら作んなくていいから」

「…うん」

「今日さ、ミーティングだけだから帰りに寄るわ」

「え、いいよ」

「俺が心配なんだよ」

「………」

「だからそれまでちゃんと寝てろよ」

「うん」



そう言って解かれた腕。
じゃあ行ってくる と言った君。
あ、なんか新婚さんみたいと心の中で思った。







( そういや、お前親は? )
( 夫婦で旅行に行った )








君の温もりが消えた後









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