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□碧い月
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「呉から見る月と、蜀から見る月ではどこか違うかい?」
部屋の窓辺から空を眺めていた私の後ろから、愛しい声がする。
振り向かなくても、声を聞かなくても、貴方だということを私はもう知っている。
「いいえ。でも…」
「でも?」
私が座っている寝台が軋む音がして、肩を優しい体温が包んだ。
「月は場所によって見える模様が違うそうですよ。私の目では、その違いは見えませんが…」
そこで初めて、私は貴方の顔を見る。
湯浴みをした後の、いつもは束ねている濡れた髪をそのまま肩に流して、いつもの温かい微笑を湛えている貴方。
「何が不安なんだい?私の伯言は」
長くて、綺麗な指。
武人らしい手が私の髪を梳いてくれる感覚。
何故、私の心をいとも簡単に読んでしまわれるのでしょうか。
「…貴方と、一つになりたいのです、子龍殿」
「…………………………うん?」
たっぷり間を空けて、漸く返ってきた返答は、鮮やかな疑問の声。
「あの、子龍殿…?」
「伯言、男の前でそんな事を言うものではないぞ?」
「私だって男です!何か変なことを…?」
突如、何故か私の視界は子龍殿から天井へと写り変わった。