自作お題

□He is not going to cry.
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「俺は、」


ぽつりと、彼は言葉を漏らした。
私はそれを、一文字も聞き逃さないように耳を傾けた。


「俺は只、幸せになってほしかっただけなんだ。」


ぎゅっ、と拳を握り締める。


「只、普通に人並みの幸せを、」


まるで独り言のようにそう呟く彼はとても小さくて。


「彼女が不幸になる理由なんて、一つだってなかった。」
「土方さん、」


嗚呼、私の声は貴方に届きはしないのだろうか。


「出来るなら、」


ぽたりと、雫が畳に吸い込まれていった。


「俺が幸せにしてやりたかった。」


ねぇ、私の声は届いてますか。


「もう、何もおっしゃらないで。」


後ろから抱き締めた彼は酷く小さく、そして何より愛しかった。

此所にはいない彼女を思って貴方は胸を痛めている。

そんな貴方を思って私は胸を痛めている。

互いに届かない声を必死に張り上げて。
私がいるじゃないですか、なんて口が裂けても言えなかった。


「土方さん、泣いてもいいんですよ。」


私の腕を掴む彼の手に力が篭るけれど、きっと彼は泣きはしないのだろう。

それでいい。
それでいいのだ。


「土方さん、」


だから私が代わりに涙を流すのです。




貴方は酷く弱い生き物だと、
私だけが知っている。




end





コメントを参考に。
お妙さんはそっと土方さんを支えてるといい。
それに土方さんが気付いて、更にお妙さんを愛しく思ってればもっといい。


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