リクエスト
□彼のもの
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「ちょっと、後から来て何様だよてめェは。」
「そうですぜィ。さっきまで姐さん無視して行こうとしたのはどこのどいつでィ。」
「るせェ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ銀時らに土方も負けじと噛み付いて、更に妙の腰に回した腕に力を込めた。
「人のモンに手ェ出すんじゃねェよ!」
しつこく手を伸ばしてくる銀時と総悟を払いのけて、ぐいと妙を自分の背後へ追いやる。
いつもの冷静な彼はどこへやら。
すっかり余裕を失くした土方は、警戒心をむき出しにして二人を睨み付けた。
「つーか、最初に話してたのは俺なんですけど。
そして一緒に家に帰ろうとしてたのも俺なんですけど。」
「旦那は一人で帰ればいいんでさァ。」
「んだとーっ!!」
銀時の言い分にすかさず総悟が反論する。
それにまたぎゃあぎゃあと言い合いを始める横で、土方は妙の腕をぐいと引いた。
「土方さん?」
「送る、」
それを見た銀時が抗議するが、土方は何知らぬ顔で妙を見つめる。
すると、その視線だけで理解したのか、妙はにっこりと微笑んで一言。
「土方さんが駄目だって言うなら、」
「当たり前だろ。」
その言葉を聞いた妙は満足そうに微笑むと、銀時に一言ごめんなさい、と謝って土方の手を取った。
そんな二人に背後で未だ不満そうな二つの声が上がるが、諦めたのかにやりと笑って口々に土方へと声をかけた。
「やきもち焼きー、」
「心が狭い男でさァー、」
「うるせェよ!!」
散々なことを言われながらもようやく彼女を取り戻した土方は、帰路に就く途中、ふいに後ろを振り向いた。
それにつられて妙も歩みを止めて同じように振り返る。
「どうかしました?」
「いや…、」
土方はそう言うと、二度三度辺りを見渡し、そして妙の手を強く引いた。
「土方さ…」
触れるだけの軽い口付け。
その一瞬の出来事に妙はしばらく動けずにいたが、土方は小さく、よし、と呟くと何事もなかったかのようにまた歩き出した。
唇も、繋いだ手も、顔も。
何もかもが熱い。
「…私、余裕のない土方さんなんて初めて見ました。」
くすくすと甘い笑い声をあげる妙に土方はバツが悪そうに視線を泳がすと、握りしめた手に僅かに力を込めた。
「他の野郎なんか、見なくていいんだよ、」
そう一言だけ言うと、言って恥ずかしくなったのか顔を背けて小さく、今のは忘れろ、とだけ呟いた。
彼女相手に余裕なんかあるはずがない。
いつだってこんなにも心揺さぶられているというのに。
「ねぇ、土方さん、」
名前を呼ばれて土方が妙の方へ顔を向ければ、心底嬉しそうに笑う彼女と目が合った。
「私きっと、
土方さんが思ってるよりもずっと、土方さんのことが好きですよ。」
他の誰も見えないくらい、いつだって彼しか見えていないのに。
「…家までもたねェかもな……、」
夕日が町を照らす中、二つの影がもう一度重なった。
end
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