リクエスト

□雪が降る、
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あの温かい場所にはもう二度と戻れない。
けれど、私は今の冷たさが心地良いの。
この…


「何やってんだ。」
「雪遊び。」
「風邪引くぞ。」


一人分の足跡に、また新たな侵入者が加わる。
ばさりと羽織を乱暴に掛けられて、私は大人しくそれを羽織った。
僅かに香る彼の匂い。


「寒い、ですね。」


息が白い。
それに目を細めてまた、はぁ、と息を吐いた。


「鼻が赤くなってんぞ。何時から此処にいたんだお前は。」


喉の奥でくくっ、と笑って私の頬をするりと撫でる。
今まで室内にいたはずなのに、彼の手は酷く冷たかった。
けどその体温が酷く心地よくて、何よりも安心できる。


「いろいろ、考えてたんです。」


未だ私の頬を撫で続ける彼の手を捕まえて。


「いつ、捕まるのかなって。」
「退屈してきたかァ?」
「まさか。」


こんな楽しいことってないわ。
ギリギリの状態。
正に綱渡り。


「捕まるなんざ有り得ねェ。」


まだまだ俺が楽しませてやるよ。


手は冷たいくせに。
抱き締められると温かいんだから矛盾してる。


「妙ェ、」


本当にその細い体の何処にそんな力があるのか。
力強く抱き締められてろくに息もつけない。


「遊びはまだまだこれからだ。」
「期待してるわ。」


噛みつくような口付けも、乱暴に、けど繊細に扱う彼の手も、何もかもが愛しくて。
とさっ、と音がして気が付いてみれば眼界一杯に彼の顔。
その背後にはしんしんと降り続ける雪の結晶。
雪の絨毯を背に、耳元ではさらさらと雪の流れる音が聞こえる。


「冷たいわ。」
「その冷たさが好きなんだろ。」


悪戯っぽいその笑みに、きっとまた恋をした。
鳴呼、きっともう、私はこの人からは逃げられない。
逃げるつもりもないのだけれど。

覆い被さってくる彼の背に手を回して、また少し距離が縮まる。
綺麗なその瞳に何もかも吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥りながら、うっとりと瞳を閉じた。
幸せだ、とそう胸を張って言える。
彼となら。


「…寒ィな。」
「ホットレモンでも淹れましょうか。」


貴方となら何処までも。
最後まで、この遊びに付き合ってあげるわ。



  end





お待たせ致しました!
a dirty trickの続きという素敵なリクエストを頂きまして。
こんなもので宜しければ、きーち様に捧げますのでっ。
本当にありがとうございました!!


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