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□決戦は日曜日
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がたん、と大きく机が揺れる。
それに妙が驚いてその顔を上げれば、いつになく必死な形相の彼らがそこにいた。

「ちょっと待った…っ!」
「おいこら定春ー!!てめェ、ちゃっかり抜け駆けしてんじゃねぇよっ!」
「危ないところだったぜィ、」
「俺も話があんだよ。」

妙を囲むようにして口々にそう言えば、妙はきょとんとして彼らを見上げた。

「日曜日!バイキングなんかより、動物園行こうぜ、動物園!」
「ちょっ、坂田邪魔だ!志村、映画のチケットがあんだよ。一緒に行かねぇか?」
「んな湿気たとこより、遊園地。姐さん好きでしょう?」
「バーカ。水族館に決まってんだろ。な、妙。行くよな。」

もうこうなっては作戦どころではない。
チャンスを窺っていたのでは他の誰かに先を越されてしまう。
我先へと妙を誘う男共に、当の本人はそれぞれのチケットを眺めながらうん、と唸った。

「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、」

どれもこの日曜日が期限なため、誰一人として他の奴らに譲るわけにはいかない。

「今観たい映画、やってるのよね。」

ぴくり、と土方の体が揺れる。

「でも、ここの動物園って最近ライオンの赤ちゃんが産まれたんでしょう?」

それも見てみたいし。
銀時がごくりと息をのむ。

「遊園地、か。最近行ってないし、確か今やってるパレードがとっても魅力的なのよね。」

沖田がきらきらとした瞳で妙を見つめる。

「私、水族館って大好きなの。それに此処って最近出来たばかりでしょう。」

ぐっと高杉の握る手に力が籠る。

「なら、公平にくじ引きしたらいいアル。」

四人が息をのんで妙を見つめていると、横からウインナーを頬張った神楽が紙とペンを片手に何やら線を描きだした。
そしてきゅっきゅと何本か付け加え、それを定春に手渡す。

「あみだくじ。」

ぺらと四人につきつけたそれは、確かにあみだくじそのものであった。
もぐもぐと口を動かしながら定春はペンを銀時に差し出す。

「…くじ、か。」
「まぁ、それが一番公平でいいんじゃないですかィ?」
「いいぜ。俺も乗った。」
「ならさっさと決めちまおうぜ。」

話し合っていても埒が明かない。
四本の線をじっと見つめながら、銀時はここだ、というその場所に大きく自分の名前を書いた。
続いて土方、高杉、沖田と続く。

「妙はいいの?」

本人の意思とは関係なく進む話に定春が声をかけるが、妙はにっこりと微笑んで頷いた。

「ええ。どこになっても楽しそうだし。」

その答えにほっとしたのか、定春と神楽はじっとその勝負の行く末を見守り、好奇心の瞳で彼らを眺める。
そして全員分の名前が書き終わり、それを神楽が取り上げた。

「じゃあ発表するアルよー。」

四人には見えないように、にやにやしながら線を辿る。
それを彼らはごくりと息をのみながら見つめていた。
じとり、と手に嫌な汗をかく。
もし当たれば日曜は妙と初デートである。
そんな願ってもみないチャンスを逃すわけにはいかなかった。

「…あ!」

結果が分かったのか神楽が声を上げる。
それにびくりと肩を揺らし、四人は早くと結果を急いた。

「当たりはー、」

ちら、と神楽と目が合ったのは誰であったか。

「高杉、アル!」
「よっしゃあっ!!」

大きなガッツポーズは、三人の溜め息を一気に吹き飛ばしてしまった。

「なら日曜日は高杉君と水族館、ね。」

そう言って妙がにこりと笑えば、高杉はひどく満足したように勝ち誇った笑みを見せる。

「うーわー。姐さん、考え直して下せェ。」

ぐずぐずと駄々を捏ねながら沖田は妙に後ろからしがみ付く。
やだー、とぐずる沖田をよしよしと宥めると、横からも不満そうな声が上がった。

「ぜってー動物園のがいいって。ライオン可愛いって。」

ぎゅう、と手を握り締めてくるそれは子供のそれと変わりない。

「今ならまだ間に合う。あんな奴止めとけって。」

しゃがみこんで真正面からそう真剣に訴えてくるその瞳に笑みを零して、妙は土方の眉間の皺に手を伸ばした。
自分でないと分かった途端に不平を洩らす三人を妙が宥めていると、見るに見かねた高杉がそれを蹴散らしてしまう。

「ふざけんな、妙は俺のもんなんだよ!」

少なくとも日曜日は。
心の中でそう零しながら三人を妙から引き剥がすと、不満の声は更に大きくなった。
しかしそんなことを気にするわけもなく、高杉はふん、と鼻を鳴らすと妙の手をぐいと引っ張る。

「おら、日曜の計画立てんぞ。」

そう言って教室から妙を連れ出した高杉は、これ以上になくご機嫌で屋上まで連れ出した。
握り締めた手が熱い。
ふいに互いの距離の近さを感じて高杉の胸はどきりと高鳴るが、だからと言って離す気など毛頭ない。
更に強く妙の手を握り締めて、屋上への階段を二人駆け上がった。
早く日曜になればいい。
妙の嬉しそうな顔を視界の隅に止めながら、高杉はこっそりと一人想いを馳せた。





     end





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