Silver soul

□Torn off chain
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鎖に繋がれた彼は酷く辛そうだった。
そしてその瞳に私の姿を映すと、安心したような絶望したような、複雑な色を宿す。
そんな彼に一歩、一歩近寄ると、彼の肩はびくりと大袈裟に揺れた。

「酷いわね、」

するり、と彼の頬を撫でれば途端に彼の顔は歪む。

「苦しい、苦しいんだ、妙…」

助けて、
そう言って泣き出す彼を私は只見ていることしか出来なかった。
彼がこうなってしまった原因は私にあるというのに。

私は彼に、愛、を教えてしまった。
今まで壊すことでその存在を証明してきた彼に、守ることを教えてしまった。
壊したい気持ちと守りたい気持ち。
それが一緒くたになり、彼自身どうしていいのか分からずその狭間でもがき苦しんだ結果がこれだ。

「痛い?」

両手を鎖で括りつけられ、まともに動くことすら出来ない彼のその赤くなった手首を擦る。
こうでもしないと自分自身を酷く痛めつけるのだと彼の部下が教えてくれた。

「痛くない、けど、胸が酷く苦しいんだ。どうしたらいいか分からない。分からないんだ、妙。妙…」

ぼろぼろと涙を零しながら必死に私の名前を呼ぶ彼を目の前に、私は呆然とその変わり果てた姿を見つめていた。
あんなに大きく見えた彼が嘘のようだ。
今にも壊れてしまいそうなその姿を眺めながら、いっそその生を終わらせてあげなければ、と頭の隅で警報が鳴った。

「大丈夫よ、大丈夫。」

まるで子供に言い聞かせるかのようにそう呟いて、その身体を抱き締めた。
すると彼は何かに酷く怯えたように身体を震わすと、荒い呼吸を繰り返す。
まただ。
発作のようにそれを繰り返す彼の背中を何度も撫でた。

「………っ、」

ちり、と首に鋭い痛みが走る。
彼の少し尖った歯が、私の薄い皮膚を破って食い込んできた。
けど、決して抵抗したりはしない。
これは、彼の精一杯の愛情表現だから。
傷つけたくない。しかし、守りたいが故、欲しいが故に壊してしまいたいという欲望。
その葛藤の中で、彼は遂に壊れてしまった。

「うぅ……、妙、た…え…、」

ひく、と喉を引きつらせながら泣く彼に、大丈夫、と再度囁いてやる。
抱き締め返せない自分が歯痒いのか、ぎり、と唇を噛み締めていた。
それを見てその唇をそっと撫でる。
これ以上、自分自身を傷付けてほしくなかった。

「神威、」

そう呟いた私の声は、確かに彼に届いたようだ。

「………、妙……っ、たえ…」

泣きながらキスをする私たちはなんて滑稽なのだろう。
彼の甘すぎる口付けにくらくらする。
それと同時に歪む視界に気付かないふりをして必死に応えた。

「妙、駄目だ…もう、駄目だよ……っ、」

殺してしまいたい、

そう呟いた彼は今まで見た何よりも綺麗に、綺麗に微笑んでいた。

「いいわ、」

貴方になら、殺されたって構わない。
それが貴方が見つけた唯一の愛だって分かったから。

「私が死ぬ時は、貴方に殺される時よ。」

そう言ってまた口付ければ、ぽろ、と一粒の涙が零れた。

「妙、妙…、愛してるよ。」
「ええ、私もよ。」

可哀想で愚かで、愛しい子供。
柔らかな唇を全身で感じながら、遠くで鎖が引き千切られる音を聞いた。








      end





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