リクエスト

□君は君で、
1ページ/3ページ




「私は私で、トシちゃんはトシちゃんだよね。」



ぽつり、と零すようにそう呟いた神楽に、土方は書類に走らせていたペンを止めて顔をあげた。


「神楽、」


突然問い掛けられた彼女らしくない質問に土方は心ならずも首を傾げる。
それでも神楽の横顔は真剣そのものでもう一度、神楽、と声をかけた。


「総悟がね、もし自分がトシちゃんだったら自分のことを好きになってたか、って言ったアル。」


土方の方を見ず、壁をじっと見つめる神楽に土方は心の中でこっそりと溜め息をついた。
何とも総悟らしい捻くれた質問だ、と。
そんな質問にも真剣に頭を悩ませる神楽が少しおかしくて、土方はしばらく様子を見ることにした。


「総悟がトシちゃんで、……でもそれじゃあトシちゃんはどこにいったアルか?」


ん?と首を傾げた神楽に思わず噴き出しそうになる。
寒いからと貸した毛布にくるまりながら、うんうんと唸る神楽に笑みが零れた。
まるで本当に小さな子供のように。
そんな姿が可愛い、と思う自分は末期だろうか。


「総悟がトシちゃんだったら、やっぱりそれはトシちゃんじゃないネ。」


そうだ、と納得したように数回頷き、ようやく神楽は土方の方へ視線を向けた。


「整理できたか?」
「できたアル。」


そう嬉しそうに笑う神楽にほんの僅かな悪戯心。
土方は意地の悪い笑みを浮かべると神楽へ一つの質問を投げ掛けた。


「なら、俺が総悟だったら、神楽は俺のことを好きになってたか?」
「トシちゃんが…総悟?」


何てことはない質問。
だが子供の彼女はまた一から組み立てないと分からないらしい。


「トシちゃんが……総悟で、総悟が…………?」


今にも爆発しそうな頭を抱えて、遂には土方に救いを求めるような表情で、頭痛い、と呟いた。
それに我慢していた笑いが一気に溢れ出す。


「はっ…、」


いきなり声を出して笑う土方に、神楽は非難の声を上げた。
滅多に声を出して笑わない土方に戸惑いながらも、神楽の幼い頭でも決して褒められたわけではないことくらいは理解出来る。


「神楽、」


ひとしきり笑った土方は、むすっとむくれた神楽に手招きして呼び寄せる。
それに大人しく従うように神楽は毛布にくるまりながら土方の前にすとん、と腰を下ろした。








.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ