リクエスト

□手を伸ばして、引き寄せる
1ページ/1ページ



「…やっと見つけた、」
「初のサボり、ですよ。」


もう少しで春が訪れようとしている矢先。
心地よい風が吹く此処屋上で、のんびりと空を見つめる彼女を見つけた。


「さっきまで教室にいたのに5限目はいねーからさ、」


探しに来ちまっただろ、とそう言えば、彼女はごめんね、と笑う。
ふわり、と風が吹いて彼女の髪を揺らした。


「あれ?でもまだ5限目の途中だよね。黒崎くん授業は…」
「サボり、」
「不良生徒だ。」


どっちが。
悪戯に笑う彼女に笑い返して隣りに並び、同じく校庭を見下ろしながら目を閉じた。
教室で井上の姿を見つけられなくて、焦って探しに出た、なんて言えるわけがない。
彼女の前では至って冷静に、いつだって頼られていたいと思うのは我儘だろうか。

井上は授業を平気でサボる奴なんかじゃない。
だから余計に心配で、適当に理由つけて教室から飛び出してきたってのに。
当の本人はいつものようにふんわりと笑うもんだから、すっかり絆されてしまった。


「何で急にサボったりしたんだよ、」
「教室からね、ふらふらしながら飛んでる鳥を見つけちゃって、」


心配になって屋上に来てみればやっぱりその鳥は怪我して飛べなくなってたらしい。
そんなとこも彼女らしくて思わず笑ってしまった。


「何かおかしかった?」
「いや、井上らしいな、と思ってさ。」


そう言いながら屋上のフェンスに背中を預けて、ははっ、と笑う。
すると、するりと左手に触れてくる体温に気付いて僅かに手を引いた。


「あ、ごめんね。…黒崎くん、怪我してる。」
「あ…?……あぁ、」


そう言いながら井上は俺の左手を握り締め、次の瞬間目の前を立花が飛び交ったかと思うと、俺の左手の傷をあっという間に治してしまった。
怪我してるなんて自分でも気付きなかったから、いきなり触れられてどきっ、としちまっただろ。なんて言葉はギリギリで飲み込む。


「今日、授業中も虚退治に行ってたね。」
「あぁ。いきなり数匹出てさ。…さっきの傷もその時のかもな。」


そう言えば井上は、自分が痛いみたいに俺の手を握り締めて顔をしかめた。


「何処か、遠くへ行っちゃわないでね。」


一際強い風が彼女の髪を靡かせた。


「行かねぇよ、」


気付いた時にはもう彼女は腕の中で、力を入れたら壊れてしまうんじゃないかと思うほど華奢な身体を、殊更優しく抱き締める。
ふわり、と彼女の香りが鼻腔を擽ってその匂いに酔い痴れた。


「黒崎、くん…っ」


腕の中の彼女は顔を真っ赤にして、こっちの姿を伺うように見上げてくるもんだから尚更離してやれなくて。
俺はいつも、井上の背中から羽が生えて、どっか遠くへ行っちまうんじゃないかと思ってる、なんて言ったら君は笑うだろうか。
この手で守りたいと誓ったものの中心に、いつだって君がいる。


「俺が絶対護ってやるから、」


だから腕を伸ばせば抱き締められる距離にいつでもいてほしい。
そう言えば井上は花が咲いたようにふんわりと笑って、俺の肩口に顔を埋めた。
何処にも行かない、と。


「私はいつだって黒崎くんの傍にいるよ。」


そのたった一言が大きな支えになる俺は相当末期だろう。
目を閉じて身体を預ける彼女に口付け一つ。


「大好きだ、」


耳元でそう言えば途端に顔を真っ赤に染める彼女が愛しくて愛しくて。
また笑えば彼女は複雑そうな顔で小さく唸った。
さらさらの髪にも唇を寄せて、遠くで授業の終わる鐘が鼓膜を揺らした。


「次の授業もサボらねぇ?」


その言葉に悪戯っぽく笑う君が何より好きだ。





    end






南様、お待たせ致しました!
甘々…になっているでしょうかっ;;(ビクビク)
もっとイチャイチャさせるはずだったのに…っ。

こんなものでも、もし宜しければ南様に捧げます。
返品も可ですので!
リクエストして下さって本当にありがとうございました^^

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ