リクエスト

□相互記念
1ページ/1ページ



あと数センチ



ただ一言声をかけるだけ。
ただそれだけなのに、喉はからから心臓バクバク。
あと数センチの距離をどうしても縮めることが出来なかった。


「…井上、」
「何?」


鳴呼、またそんな無防備な顔して。
それでも俺の声に反応して振り向いてくれただけで嬉しい。なんて思う俺は末期だろうか。
風に井上の髪が靡いて思わず触れたくなる。
なぁ、お前は俺の手の届く場所にいるのか?


「黒崎君?」


いつか急に井上がいなくなりそうで。
そんなことあるわけないけど。
でも絶対ない、なんて言いきれないだろう?
あと数センチ、少し手を伸ばすだけでいいんだ。


「井上、」



ほら、



「…わっ、く、黒崎くんっ!?」




捕まえた。




「良かった、まだ届く。」


後ろからその華奢な身体を抱き締めればふんわりと甘い香りが鼻孔を擽る。
それが心底俺を安心させて、更にきつく抱き締める腕に力を込めた。


「黒崎君、どうしたの?」
「いつも、俺の手の届くところにいてくれよ…」


こんなの只の独占欲。
けど、不安なんだ、心配なんだ。
儚く消え入りそうで。
馬鹿な考えだなんて言わせない。


「好きなんだ。」
「…っ、今日の黒崎君、変、だよ。」


そう言いながらも井上の顔は耳まで真っ赤で。
そんな彼女が可愛くて耳の後ろに口付けた。


「私、は。いつも黒崎君の傍に、いるよ。」


ふいと後ろを振り向いてそう言う井上に思わず笑みが零れた。
そんな、子どもに言い聞かすような表情。


「本当、敵わねーな。」
「 ? 」


軽く触れた唇から彼女の体温を感じ愛しさが膨らんだ。
いつだって届くのだ。
あとはほんの少しの勇気。
いつも彼女は受け入れてくれるから。
そんな状況に少し甘えてみようか。


「黒崎君、此処、学校…しかも廊下…」
「ああ、でも…」


もう少しこのままで。


クラスメートが通ったら、何て言い訳しようか。
なんて考えながらも離す気はないわけで。


「次の授業、サボらねェ?」


どうにも止まりそうにない理性。



いつも、僕の手の届く場所に。



  end






星野未来様のみお持ち帰り下さい。
素敵な作品をありがとうございました!
こんなものしかお返しできませんが…っ!!
相互ありがとうございました。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ