リクエスト

□まわる、まわる
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ぐるぐると、
終わらないサイクルを

僕らは永遠に回り続けるのだろう、




何気ない大通り。
人は忙しなく行き交い、擦れ違った人にさほどの興味も見せず足早に過ぎて行った。

そんな人込みの中を彼女はするりと抜け出し、細い路地裏を通り抜けた。
通り抜ければそこは一変してさらさらと流れる川と土手道。
ようやく開放された息苦しさに、彼女はほう、と息を吐いた。
既に日は傾き空は赤みがかっている。

暗くなる前に、そう思い自然と歩く速度も早くなる。
と、ふと先にきらりと光る見慣れた色彩を見つけた。
それを視界にとめると彼女はほんのりと口許を緩め、穏やかな口調でその名を呼ぶ。


「銀さん、」


彼女がそう呼ぶと彼はゆっくりと振り向き、おぉ、と短く返事を返した。


「お仕事帰りですか?」
「まぁな。お妙こそ、買い物?」
「えぇ、久し振りにお休みもらったんで。」


そう言ってがさりと買い物袋を見せる。
妙は銀時の横に並びまた歩を進めた。
特別話す事もない。
しかしそれで良かった。

ふわりと二人の間を暖かい風が吹き抜け、草木がさわさわと音を立てる。
妙は黙って横を歩く男を盗み見、心の中で小さく溜め息を零した。


「………、」


結局、彼は何も映していないのだ。
こんなに近くにいるのに、
今此所にいるのは自分と彼の二人だけで、他には誰もいないのに。
それでも自分は彼の視界には入れてはいない。
誰も入ることの出来ないその世界に妙は踏み込んでみたかった。
否、踏み込めたと思っていたのに。


「結局は何もかも、私の思い上がりだったのよ。」


だからせめて少しでも近くで彼を見ていたくて、妙は気のない振りをして近寄った。
あと数センチ。
あと数センチで触れられる、というところで銀時はいつも雲のようにするりと抜け、決して触れさせはしない。

そのもどかしさを妙は何度も体験していた。
既に諦めにも似た感情がじわじわと浸食をし始めていたが、僅かな希望に賭けてみたいていう自分もいて。
徐々に暗くなる空はまるで自分のようだと妙はまた一つ溜め息を零した。




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