リクエスト

□彼のもの
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「あ、姐さん。」


その言葉に、銜えていた煙草がぴくりと揺れた。


「声、掛けねェんですかィ?」


そう言って(確信犯だろう)、ことりと首を傾げる総悟に土方は極めて平静に前を見た。
そしてその視界に彼女の姿をとめるとまた、胸をざらりとした何かが締め付け僅かに眉を顰める。


「今は仕事中だ。第一用もねぇのに声なんか掛ける必要もねぇだろう。」


そう言って土方は短くなった煙草を揉み消し、また新たな煙草に火を付ける。
この上司は、何か気にかかることがあったら煙草を吸う速度が速くなることを知っているのだろうか。
そして、今気にかかっていることは間違いなく彼女と、もう一人。その横でその彼女と話している彼、だ。
それを確認しながら総悟は、心の中でにやりと不敵な笑みを漏らして一歩大きく踏み出した。


「じゃあ俺は挨拶してきまさァ。」
「は?おい、総悟…、」
「俺は、用事があるんでねィ。」


俺は、の部分を殊更強調して、土方の制止の声も聞かずに総悟はお目当ての彼女のもとへ走りだした。


「姐さん!」


普段の無愛想な彼はどこへ行ったのか。
思わず目を疑いたくなるほどの人懐っこい笑みを浮かべて、総悟は彼女、妙の前へと駆け寄った。


「あら、沖田さん。お仕事中?」
「そうでさァ。姐さんは買い物帰りですかィ?」
「えぇ、今日はお鍋にしようと思って。」


そう言ってがさりとスーパーの袋をかざして、彼女はにっこりと笑った。
それにぱたぱたと尻尾を振りながら、総悟は家まで持ちやすぜィ、とその手を差し出す。
が、しかしそれを阻む手がずいと彼の前に現れ、総悟は内心、ちっと舌を鳴らした。


「おいおい、俺は無視ですか総一郎君。」
「…あぁ、旦那。いたんですかィ?」
「君よりずーっと前からね!」
「それは失礼致しやした。こんにちは、はい、さようなら。で、姐さん…」
「おいこらちょっと待てェェェ!!」


ちゃっかり彼女の腰に手を回して連れ去ろうとする総悟に、さすがにキレた彼、銀時ががしりとその腕を掴んだ。


「お前なぁ!俺が先にお妙と話してたんですー、そしてこれからお妙ん家で鍋パーティをするんですー。
 邪魔すんなよ、コラ。」
「旦那ァ、大人げないですぜィ。」


バチバチと火花を散らす銀時と、不敵な笑みを浮かべる総悟。
互いに妙の腰に手を回し、譲ってなるものかと睨み合う。


「あらあら、」


そんな二人を妙は困ったように見上げながら、どうしようかと首を傾げる。と、ふいに目の前が真っ暗になった。
そしてあっ、という間もなくそのまま後ろから何か大きなものに包み込まれた。


「「あっ…!!」」


銀時と総悟の声がかぶる。
そして二人は妙を引き寄せた張本人を睨みつけるが、彼は更に鋭く二人を睨み返した。


「てめェら…。さっきから人が黙って見てりゃ、調子に乗りやがって。」
「土方さん…?」
「お前も少しは抵抗しろ!」


妙の目を後ろから手で覆い、きょとんと首を傾げる彼女を叱咤する。
そして土方は、先程まで銀時と総悟が手を回していた腰を手で払うと(それにもちろん二人の抗議の声が上がったが)、ゆっくりと彼女の目を覆っていた手を放してやった。






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