リクエスト

□雪が降る、
1ページ/2ページ



あれからどれほどの月日が流れたのだろう。
私があの地を離れたのは春先だったというのに。


「雪…、」


頭上を見上げれば白い結晶の塊たちが降りそそぎ、地面をまた白く染め上げていった。
この季節は嫌いではない。
何度変えたか分からない拠点に退屈するわけもなく、毎日が慌ただしく過ぎていく。
しかしそれは不快ではなく、むしろ楽しくて仕方がなかった。


「みんな、元気かしら。」


白い世界にぽつんと一人。
まだ誰にも踏み込まれていない雪の上に足跡を残す。
この色彩は嫌でも彼を思い出してしまい、それと同時に二つのあの可愛らしい笑顔も鮮明に蘇る。


「新ちゃんも神楽ちゃんも風邪、引いてないといいけど。」


新ちゃんは一度風邪を拗らせると長引くから。
そーいえば風邪の時に飲ませてやるホットレモンが大好きだったっけ。
いつかそれを神楽ちゃんにも飲ませてあげると、すごく嬉しそうな顔をしてたっけ。


「また、無茶やってるんでしょうね。」


だらしのない雇い主に振り回されて。
それでも元気に駆け回る三人の姿が目に浮かぶ。
そしてあの黒い色彩は。
きっと今も私を捕まえようと走り回っているんだわ。


「早く、見つけてくださいね。」


そして貴方の正義を私に突き付けて。


「もう私は、其処に戻ることはできないから。」


雪を掬い上げ風に乗せる。
さらさらと風に運ばれて行く雪たちに口付けを。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ