gift2

□Non pianga
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気掛かりなのは一つだけ。

君がこの空の下。
一人で泣いてやしないかと。

そう思うと堪らず苦しくなるのです。





   Non pianga





その手を離してしまったのは俺だった。
いつだって目の届くところに置いておきたかったのに。
一瞬、ほんの一瞬手を離した隙に、君はもう既に其処にはいなかった。


 ねぇ、黒崎くん


振り向けば其処でいつもと変わらず微笑んでいるような気がして、俺は無意識に彼女を探す。
彼女に名前を呼ばれるのが好きだった。
あの柔らかく温かい声で呼ばれる度、言いようのない幸福感に包まれる。
俺の隣は空っぽで。
時折吹き抜ける風が、さらと俺の髪を撫でた。

「井上…、」

ぽつり、と。
俺の口から零れたその名は、伝わることなくぽたりと落ちる。
会いたい。君に会いたいんだ。

「助けに行くから。」

もう手を離さないから。
もう二度と。離れられないようにこの腕に閉じ込めておきたい、なんて言ったら君は笑うだろうか。


 黒崎くん、大好きだよ


「俺も、」

大好きだ、なんて言葉は胸が詰まって言えやしない。
でも、必ず君に伝えるから。


彼女がいる世界に足を踏み入れた時、何故だか彼女が泣いているような気がした。


「もう大丈夫だ。もう、終わったんだ。」

夢を見た。
声もなく、ただ涙を零す彼女を抱き締める夢。

必死にしがみ付いてくるその細い身体を強く抱き締めて、僅かな体温を噛み締めるようにその髪に顔を埋めた。
途端に広がる甘い香りにくらくらする。
ずっと会いたかった。そう言えば、彼女も腕の中でこくりと頷く。

「黒崎くん、ありがとう。」

そう笑った彼女に口付けて、目一杯の愛の告白。

「        」

彼女はもう、泣いてはいなかった。


温度を感じられない冷たい世界。
こんな世界に一人連れられた彼女は今、どういう想いでいるのだろう。
一刻も早く助け出したくて、急く足を止められない。
会いたいという思いが先行して、何度も足が縺れながら、それでも走った。
助けるから。俺が、君を守るから。


「…黒、崎くん……、」



ああ、
愛しいという思いが暴発する ―






      end



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