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□決戦は日曜日
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机の上に一枚の紙。
これをどう活用すべきか。
それを延々と考えて既に半日が経っている。
そうこうしている内にあっという間に一日が終わり、そして明日が来る。
延長戦、などという結果にはどうしてもしたくない。が、しかしこれに決着をつけようにもその方法が思いつかないのだから救いようがない、と土方は一人本日何度目かの重たい溜め息を吐いた。

ことの発端は昨日の放課後。
部活終りにたむろしていた銀時、高杉と土方、沖田の二人は偶然鉢合わせた。
そこでいつもの如く銀時が土方を挑発し、それを買った土方を高杉と沖田がはやし立てる。
そんないつものやり取りが、昨日に限っては間が悪かったらしい。
場所が理事長室の目の前だったこともあって、四人仲良く説教をくらってしまった。
加えて資料室の整理を任された彼らは渋々それをこなし、終わった頃には辺りは真っ暗。
悪態付いて帰路につこうとした所で例の物は渡されたのだ。

「ババア、何だよこれ。」
「今日の戦利品だよ。どれもこれも貰いもんでね。」
「遊園地のチケットでさァ。」
「あ?俺のは映画のチケットだぜ?」

一人一人に手渡された一枚の紙は、どれも違う種類ではあるものの映画や遊園地のペアチケットであった。
それを首を傾げながらも受け取ると、どれも貰いものだが使い道がないため貰ってくれとのこと。
あって困るものでもないし、何よりタダで貰えるのなら何だって貰うと四人は嬉々としてそれを受け取った。
しかし、それが後彼らの頭を大いに悩ませることになるなど、この時は思いもよらなかったのである。

「はあ、」

教室の隅から聞こえる先程とは別の溜め息。
そこでは銀時が土方と同じく、机の上に一枚の紙を置いて頭を悩ませていた。

「どーすっかな、これ。」

紙には“動物園”の三文字。
銀時が貰ったチケットは近所の動物園のチケットで、最近ライオンの子供が生まれたと話題のそれでもあった。

「要はいかに自然に話を持ちかけるか…」

ぶつぶつと一人作戦を練りながら考えること数時間。
彼もまた、土方同様そのことで半日を費やしていた。

「はあ、」
「はあ…、」

そして更に少し離れた席ではこれまた同様に重たい溜め息をつく男子生徒二人。
やはりこの二人もまた、堂々巡りで答えの出ない問題に頭を抱えているのであった。

「水族館、か…」
「デートと言えば遊園地が定番ってやつかねィ、」

うんうんとそれぞれの席で頭をフル回転させる四人は、はたから見れば明らかに異様なそれではあるが当の本人らはそれどころではないらしい。
貰ったチケットをいかに有効に活用するか。
そしてその答えは運悪くも四人揃って同じ答えであった。

「姉御、お昼ご飯の時間アルよー。一緒に食べよ。」
「ええ、」

ぴくり、と四人の体が同時に揺れる。
本人に気付かれないようにそっと視線を向ければ、いつものようににっこりと優しい笑顔でお弁当の包みを開ける彼女の姿があった。
すらりとした長い手足。真っ白で染み一つない肌。
真っ黒の瞳と髪は、見ているだけで吸い込まれてしまいそうだ。
そして何より、その笑顔が自分に向けられたらと思うだけで心臓が張り裂けてしまいそうなほど彼女のそれは魅力的であった。
志村妙。
彼ら四人の想い人でもある彼女は、彼らの苦悩など知らず楽しそうに談笑しながら昼食をとっている。
チャンスは今だ。
誰もがそう思った。
放課後になればお互い部活があるし、休憩時間では時間が足りなさ過ぎる。
一番自然に、一番さり気無く誘えるのは今のこの時間しかない。
誰かががたり、と椅子を鳴らした。
そして一歩、彼女に歩み寄ったその時である。

「妙、今度の日曜、一緒にケーキバイキング行こう。」

その言葉に、四人はぴたりと同時に動きを止めた。

「ケーキバイキング?」
「昨日理事長から貰った。」

がぶり、と売店で買った大きなカツサンドを頬張りながら定春がこくりと頷く。
すると、神楽がそれに加えるように話を続けた。

「昨日定春とボールで遊んでたら、理事長室の窓ガラスが壊れたアル。
 んで、罰としてトイレ掃除したらご褒美だって言って、それくれたネ。」
「あら。じゃあ神楽ちゃんのでもあるじゃない。」

それを聞いて妙がチケットを神楽に返すと、ふるふると首を振ってまた、ずいと押し返される。

「その日、パピーがやって来るネ。だから私は行けないアル。」
「一人より、二人の方が美味しいから。」

ぺろりと指についたソースを舐めとって定春がそう言えば、妙はそうね、と笑って彼の口元にもついていたソースをハンカチで拭ってやった。

「それに姉御、このお店ができた時に行ってみたいって言ってたアル。」
「俺も、聞いた。」

揃ってそう言いながら、うんうんと頷く二人に妙は僅かに瞳を大きくした。
そんなことを言ったのは随分と前の話だろうに。
それをちゃんと覚えていてくれたことに妙は嬉しくなって、ありがとうと微笑んだ。

「じゃあ、折角だし…お言葉に甘えて」

そう言って妙がチケットに再度手を伸ばそうとしたその時である。
今まで動けなかった例の四人が、勢いよく三人のいる席に向かって突進していった。



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