gift2

□いつか愛を知る君へ、
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よろしくお願いします、と下げられた頭を銀時はただじっと見つめていることしかできない。
何人もいる新入社員の中で彼女だけが特別輝いて見えた。




いつか愛を知る君へ、




あれから二年が過ぎた。
まだあどけない表情をつれていた少女は、すっかり会社にとっていなくてはならない頼もしい存在になっていた。
スピード出世。
そんな言葉が銀時の頭のなかにちらりと過ぎる。
同期で入社した他の社員たちはようやく慣れてきた頃だと言うのに。


「坂田さん。チェックお願いできますか?」


ちらりとパソコン越しに見えたその整った顔に、知らず知らずのうちに溜息が漏れた。


「怒ってます?」
「何が?」
「だって溜息。もう少し早く仕上げれたら良かったんですけど…」


まだ容量が悪くて、と全く見当違いなことを言う彼女に銀時はまた、はあ、と溜息をこぼした。


「違ぇよ。その逆。もうできたの?」
「…別に手なんか抜いてません。」


だからそうじゃなくて、と僅かに眉間に皺を寄せて目を吊り上げる彼女に銀時はやれやれと苦笑いを見せる。
彼女が手を抜く、なんて有り得ないことだ。
むしろ少しくらい抜いても罰は当たらないんじゃないか、と思うほどに仕事に大真面目だった。
それは銀時にとっては助かる反面、心配要素でもあるのだけれど。


「あんま無理して身体壊すなよ。」
「坂田さんに言われたくないです。」
「俺?」
「普段やる気なさそうだけど、本当はみんなが帰った後もずっと残業してるって知ってますよ?」
「へえ。よく見てんな。」
「たまたまです。」


そんなに俺のこと気になるの?と銀時が冗談めかして意地悪な顔を作ってやると、彼女は途端に嫌そうな顔を見せて手に持っていた書類を押し付けてくる。
そして、もうくだらない話は終わりとばかりに早々に踵を返して自分のデスクに戻っていった。
その後ろ姿を見ながら銀時はまた気付かれないようにこっそりと息を吐く。


「妙ちゃんはいつになったら懐いてくれんのかね。」


彼女がまだ新入社員の頃。
彼女よりも三年早く入社していた銀時は、妙の教育係に任命されていた。
勿論、妙以外の新入社員の面倒も見ていたのだが、容量も物覚えもいい妙は酷く教えがいもあり、その期待通りあっという間に急成長を遂げた。
そんな妙との関係は、良くも悪くもいい関係が続き、他の社員よりもよく話している自覚はある。
最初よりも言動に遠慮がなくなってきたのも距離が縮まったからだと言えば聞こえはいいのだが。


「所詮、あいつにとっちゃ、俺はただの先輩か。」


縮まった距離の間に引かれた一本の線。
それを飛び越える術をまだ銀時は見つけられないでいた。


「まあ、ゆっくりやりますか。」


まずは今日の夜、妙を食事に誘ってみようと周りの呆れた顔を無視してネットで店探しに勤しむことにした。




「こんなお店。初めて来ました。」
「そう?」
「今日は贅沢させてもらってばかりだわ。」
「いつも頑張ってる妙ちゃんにご褒美。」


そう言ってにっこりと笑ってやると、妙も機嫌がいいのかそれにふわりと笑い返す。
ほんのり桜色に染まった頬が可愛くて、銀時は無意識に伸びる手を制してバーカウンターの椅子をひいてやった。
仕事中に探し出した店は思った以上に雰囲気も料理の味もよく、二人して気分が良くなったところで妙を次の店に連れて行くことに成功した。
いつもは次の日に響くから、とかなんとか理由をつけられて帰られてしまうのだが、今日は銀時の誘いにすんなりと首を縦に振りタクシーに乗り込む。
そこから15分ほどした場所でタクシーを降り、銀時行きつけのバーの扉を開けた。


「よく、来るんですか?」
「此処?」
「ええ。」
「そうだな…、週に二回は必ず。」
「そんなに?」
「居心地いいんだよ。」
「確かに雰囲気はとってもいいですけど…」
「緊張する?」
「少しだけ。」


光に反射して綺麗に並べられたグラスがきらきらと光る。
その光は決して目に眩しくなく、むしろ目をとろんと和らげてくれるもので。
それに負けていないくらいに所狭しと並べられたボトルの数に、妙はつい目移りしてしまった。




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