Silver soul2

□拾いました。
1ページ/1ページ



※お妙さん、子猫化してます。





「団長ー、何してる…」
「拾った。」
「返してきなさいィィィィ!!」

薄暗い路地裏。
上から言いつけられたお使いとやらを済ませて、神威と阿伏兎はある借家で数日過ごしていた。
朝からふらりといなくなった神威を大して気に留めるでもなく、だらだらと過ごしていた阿伏兎に突如訪れたハプニング。
夕方にひょっこり戻ってきた神威の手の中には、小さな生き物が存在していた。

「嘘だろ、オイ。冗談だろ。」
「見ろよ、阿伏兎。可愛いだろ?」

有り得ない。何が有り得ないって、何かもう全てが有り得ない。
そう心の中で何度も復唱しながら、阿伏兎はこの混乱をどうにか宥め、必死に平静を取り戻そうとあがいた。

「で、どこでどうしたって。」
「一人でうろうろしてたから拾ったんだ。」

それは所謂、誘拐というやつではないだろうか。
それを理解した瞬間、阿伏兎は更に痛みを増した頭をぐっと抑えた。
面倒事は勘弁してくれ。
只でさえ、普段からこの自由奔放(すぎる)な団長の尻拭いをさせられてきているのに。

「でも、抵抗しなかったよ。」
「そういう問題じゃねーだろ…、」

余程気に入ったのか、膝の上でもぞもぞと動くそれを、神威は楽しそうに構い倒していた。

「大体。アンタ、生き物を拾ってくるとかしたことねーだろ。」

他に興味を示さない彼が何でまた。

「んー、何でかな。俺にも分からないんだけど、あのまま逃がすのは惜しい気がして。」

つい、ね。と悪気もなく笑う神威に、阿伏兎はああ、と頭を抱えた。
こうなってしまってはもうどうすることもできない。

「とにかく、飼い主がいるかもしれねーから。」
「いたらどうすんの?」
「返すんだよ。」
「えー、」
「えー、じゃない!」

途端に不満そうな声をあげる神威に、阿伏兎はぴしゃり、と言い放つ。
それでもまだ不服そうな神威を置いて、阿伏兎はやれやれと重い足を引き摺って借家を後にした。

「ちぇー。阿伏兎のけちんぼー。」

残された神威はごろり、と身体を倒してぱたぱたと足を揺らす。
と、もぞり、とお腹の上で遊んでいたそれが大きく身じろいだ。

「どした?」
「…にゃー、」
「お腹減ったの?」

何かあったかなー。と小さな冷蔵庫の中を探る。
それにその小さな生き物も同じようにその中を覗き込んだ。

「あ、アイスあるよ。食べる?昨日阿伏兎に買いに行かせたハーゲンダッツ。」
「にゃっ!」

手に取ったそれを神威がひらひらと見せると、その生き物はその瞳を一層大きく輝かせてこくこくと頷いた。

「じゃあ、食べよー。」

よいしょ、と胡坐をかき、その上に拾ってきたそれを乗せてスプーンで一口掬い取る。
神威は溢さないように丁寧にアイスをその小さな口に運んでやりながら、ふとあることを思い出した。

「そう言えば。ねぇ、君何て名前?」

もし飼われているのなら名前があるだろう。
ないのなら自分がつけてしまえばいい、とそう思いながら尋ねると、それはごそごそと懐を探り始めた。

「ん?」
「んにゃ。」

そして渡された小さな財布。
それを受け取りぱちんと開けると、その中には僅かなお金と紙が一枚入っていた。

「何、これ。……たえ?」

その紙に書かれてあった文字を読み上げると、膝の上のそれはこくりと大きく頷いた。
どうやらそれが名前らしい。
そしてその下にはおそらく、それ、妙が住んでいるのであろう住所がはっきりと書かれてあった。

「君の主人はしっかりしてるみたいだね。」

今頃必死になって探してるかも。
そんなことをぼんやりと思いながら、神威はまた一口、妙の口に運んでやった。
一カップをあっという間に平らげてしまった妙は、上機嫌で部屋を散策する。
その小さな後ろ姿を見ながら、神威はぽとりと言葉を落とした。

「今更だけどさ。…妙は天人?」
「にゃ?」

くるりと小さな頭がこちらを向く。
言葉は話せないようだが、こちらの言うことは理解出来るらしいので神威はいろいろと質問をぶつけてみることにした。

「その耳は、本物?」

そう言って妙の頭に付いている二つの黒い耳(どう見たって猫のそれだ)を指さすと、その耳はぴくぴく、と動いて見せた。

「おー。じゃあその尻尾も本物なんだ。」

ゆらりゆらりと揺れる、これもまた真っ黒な尻尾は楽しそうに背後で揺れていた。

「おいで。」

そんな妙の姿に気分を良くした神威は、ちょいちょいと手招きして妙を呼ぶ。
それに妙は何の躊躇もなく小走りで神威の元に駆け寄ってきた。
ハーゲンダッツの効果か。すっかり警戒心というものをなくしてしまった妙は、嬉しそうに神威の膝の上に腰を下ろした。

「妙はさ。主人のこと、好き?」

目の前でぴく、と動く耳にそっと触れながら、同時にその小さな頭をよしよしと撫でてやる。
その優しい手の動きにうっとりとしながら、妙はこくりと頭を上下に動かした。

「じゃあ、俺のことは?」

きゅっ、と妙のお腹に回した手に力を込める。
後ろからしっかりと、しかし痛くないように引き寄せながらそう問うと、真っ黒な瞳と目が合った。
思わず吸い込まれてしまいそうだ。

「にゃー、」

こつん、と額と額が軽くぶつかる。
くるりとその小さな身体を反転させて、妙と神威は向きあうようにしてお互いの瞳を覗きあった。

「こんな気持ち、初めてだ。」

壊したくない。なんて気持ちが自分の中にあるなんて思いもしなかった。
初めて会ったこの小さな生き物を、手放したくないと感じている。
傷付けないように、力を入れないように最大限の注意を払っている。
そんな何もかもが、神威自身をも動揺させた。

「また、遊んでくれる?」

そう言ってその顔を覗きこめば、妙は途端に嬉しそうにその表情を綻ばせた。
ぎゅうと抱き付いてくる小さな身体。
それを壊さないように、神威はしっかりと抱きとめた。

「団長ー。飼い主見つかったから返しにいくぞ。」
「はーーーーい……」
「何だそのいかにも不満です、って顔は。」
「不満なんだから仕様がないだろ。」

それからしばらくして、飼い主探しに出ていた阿伏兎が戻ってきた。
丁度二人して昼寝をしていたもんだから、ぼさぼさの髪を適当に直して神威が重い腰を上げる。
そして足元に絡み付いていた妙をひょいと抱き上げると、時間だって、と心底残念そうな声を漏らした。

「あちらさんも相当必死に探してたみたいだからな。」

それはそれは大変な形相だったらしい。
阿伏兎のその話を聞きながら、神威はそれでも腕の中の温もりを手放したくないとでもいうようにぐりぐりと顔を押し付けた。

「ん、にゃー。」
「ほらほら、団長。その子も困ってるから。」

あまりに擦りつけるもんだから、せっかく綺麗に整えられた妙の髪もまたぐちゃぐちゃになる。
それを阿伏兎が手櫛で整えてやり、あ、それと。と付け加えた。

「飼い主、なんだけどな。」
「…………。」
「どういう運命か知らねーが。団長の妹んトコのあの侍だったよ。」

ぴく、と神威の肩が揺れる。
本当に?と眼で訴える神威に、阿伏兎はうんうんと頷いてやった。

「けど、今日はその子を返すだけ。」

余計な面倒は起こさないでくれよ。
そう言って釘をさす阿伏兎に、神威は分かってるよ、と呟いた。

「妙に怪我させたら嫌だからね。今日は我慢するよ。」

そう言って腕の中の彼女に微笑みかければ、妙もまたにっこりと微笑み返した。

「え、何なに。本当にどうしちゃったの、うちの団長は。」

しぱしぱと目を瞬かせながら自分の頬を抓る阿伏兎に、神威は大して気にするでもなく言葉を続ける。

「それに、今怒らせて二度と妙に会わせてもらえなくなったら困るし。」

また遊ぶって約束したもんな。とそう言えば、妙は嬉しそうに鳴いて頷いた。

「すっかり骨抜きにされちまってまあ。」

そんな二人を見ながら溜め息一つ。阿伏兎はやれやれと苦笑いして、目的地へと急いだ。




「お妙ェェェェ!!!」
「姉御ォォォ!!」
「姉上ェェェ!!!」

少し先から酷い形相で駆け寄ってくる三人に、神威は一瞬怯む。
が、相変わらず賑やかな連中にくすくすと笑みが零れた。

「神威ィィ!!お前、姉御を誘拐ってどういうことネ!!」
「拾ったんだ。」
「それが誘拐だってんだろォ!!」

開口一番そう怒鳴りつけてくる神楽と銀時に、神威は肩をすくめてやれやれと隣の阿伏兎に助けを求めた。
が、彼も怒られて当然だと言う顔で目を逸らすもんだから思う存分この二人の説教に付き合うはめになる。

「とにかく、無事で良かったですよ。」

水気の帯びた瞳をごし、と擦りながら新八は元気そうな妙を見てそう呟く。
それを見て妙は、少し困ったような、申し訳なさそうな、そんな声でなあ、と鳴いた。

「あー、もうお別れかー。」
「おら。もう返せ!」

がるる、と牙を剥き出しにして手を伸ばしてくる銀時をひょいと避けて、神威はぎゅうと妙を抱き締めた。
それに非難の声がいくつか挙がるが構ってる暇はない。

「絶対、また遊びに来るから。」
「にゃあ。」

そう言って抱き締めてくる神威のおさげを妙は、きゅ、と握り締める。
一度大きく息を吸い込んで、神威はゆっくりとその小さな身体を放してやった。

「じゃあ、またね。」

妙が銀時の手に渡るのを見ながら、その小さな手を握り締めた。
真っ黒な瞳がじっと見つめてくる。
名残惜しそうにその手を何度も握り締めて。

「にゃー。」

その鳴き声が寂しそうに聞こえたのは、決して聞き間違いではないだろう。

「また来るよ。」

そう言うと、突如神威は銀時の腕ごと妙を引き寄せる。
突然のことにバランスを崩した銀時はそのまま神威の方へ引き寄せられ、そして見たくもない光景を目の前で見せつけられる羽目になってしまった。

「あぁぁぁああーーっ!!」

頭上で上がる怒りの声も気にしない。
妙のその柔らかな頬へ口付けて、神威は銀時に殴られる前にひらりとその身体を翻した。

「じゃあ、君たちもまたね。」
「「二度と来んなァァァ!!!」」

そんな罵倒を背中に浴びて、神威は楽しそうにその場を後にした。
きっとまたすぐに会える。
願ってもみなかった拾いものに、これからの楽しいことに向けて思いめぐらせながら帰路についた。

「ほどほどにしとけよ、団長。」
「さーて。ハーゲンダッツ箱買いしなきゃね。」






    end








お妙さんが何故猫化したのかは考えてません。←
坂本の薬とかかなー
真撰組に拾われたら返してもらえないこと請け合いです。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ