Silver soul2

□繋がってるのは僕と君
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日も傾き、空が赤く染まり始めた河川敷を、土方は普段よりも幾分かゆっくりとした足取りで歩いていた。
市中見廻りも終わり、後は屯所へ帰って書類整理をするだけだ。
それだけなら大した時間もかからないだろう。
久し振りにゆっくりとした時間がとれると、足取りも軽く帰路についていた彼に、思いもかけないものが飛び込んできた。

「……な、あれは…っ」

ふいに左耳に届いた川の水音。
いくら今が初夏だからと言って、この時間の川の水温は到底暖かいとは言い難い。
増して、ここ何日か降り続いた雨のせいで増水までしている始末だ。
そんな中、まるで気にしていないかのように懸命に川の中を歩いているのは紛れもなく。

「神楽っ!」

思わず銜えていた煙草をその場に放り出し、腰辺りまで川に浸かっている彼女の後を追った。

「馬鹿!何してんだ、お前は!」
「あ、トシちゃん。」

あ、じゃねぇ!と思わずそう怒鳴るも、神楽は気にする様子もなく、へらへらと手を振って来る。
それに更に土方の眉間に皺が寄るが、そんな彼をおいて神楽はまた水面に向かって手を伸ばした。

「早くこっちに来い!」
「でも…、」
「でもじゃねぇ!ほら、」

早く、と膝辺りまで水に浸かって懸命に手を差し伸べてくる土方に、神楽は名残惜しそうに水面を見つめ、そして大人しくその手をとった。

「本当に、何やってんだ。」

ざば、とそのまま抱き上げられて河岸まで連れていかれる。

「…このままじゃ風邪引くだろ。これ着てろ。」

そして肩に隊服をかけられ、ぐいと手を引かれた。

「でも、これじゃあトシちゃんが、」
「俺はいい。」
「でも、」
「いいから。それより何であんな所にいたんだ。」

俺にとってはそっちの方が大問題だ、と言わんばかりに上から見下ろされれば、神楽は途端にしゅんと頭を項垂れてしまった。
腰から下は冷たいのに、隊服がかけられた肩と繋がれた手は酷く熱い。
ぶかぶかの隊服の袖をぷら、と遊ばせながら、神楽は口を尖らせて呟いた。

「だってね、石、流れちゃったアル。」
「…石?」
「そう。」

青くて丸い綺麗な石。
そう言って、本当に本当に綺麗なんだと神楽が訴えれば、土方は心底呆れたように溜め息をついた。

「そんなもののためにお前は、あんな危ないことを…」
「そんなものじゃないアル、」

そんなものじゃ、と再度小さく零した神楽に、土方は困ったな、とその小さな頭を見下ろした。
その顔は、上からはよく見えないもののそれでも今にも泣き出しそうなのは手に取るように分かった。
その証拠に、大きな隊服に手が隠れてしまっている裾でごしごしと目を擦るのが見える。

「あー、悪かった。」
「……………、」

どんな石かは知らないが、神楽にとっては余程大切なものだったのだろう。
だからこそ、あんな危険な真似をしてまで必死に川の中を突き進んでいたのだ。

「…神楽、」
「……………、」

ああ、いよいよ困ってしまった。
すっかり機嫌を損ねてしまった彼女の手を握りながら、土方はどうしたものかと首を捻る。
しかしこのまま帰してしまうわけにもいかない。
仕方ない。今日の書類整理は明日にまわそう。
とそう決めて、土方は万事屋に向けていた足をくるりと方向転換させた。



「先に風呂、入ってこい。」

客人用だから気にすんな。とそれだけ言い残して、神楽をおいて土方は一旦自室に戻った。
それからやることは一つである。

「はいはい、こちら万事屋銀さ…」
「神楽は俺が預かってる。」
「何、その誘拐犯みたいな台詞。」
「とにかく。今日はうちに泊まらせるから。じゃあ、」
「ちょ、待った待った!」

用件だけ言って切ろうとする土方に、受話器の向こうで慌てたように銀時が騒ぐ。
それに、何だよ、土方は舌打ちと共に返してやるが、しかしそんなことを気にするでもなく、銀時はあのさあ、と話を切り出した。

「お前なんか特にだけど、おまじないとかそーいうの。下らねえって思うかもしんねーけどよ。」
「……………、」
「まあ、最近会ってなかったみたいだし?神楽も神楽で、邪魔したくねーってんで大人しくしてたんだよ。」
「…あ?………、」
「でもまあ、結局はアイツもまだまだ餓鬼だっつーことで。だからまじないの一つや二つで安心するってんなら、ちょっと付き合ってやってくれや。それに、」
「ちょっと、待て。話が見えねえ。」
「だから、…って、え?神楽に貰ってねえ?」
「………何を、」
「青い石。」

がちゃん、と受話器を下ろしてから、土方は重たい息を吐いた。

「…はあ、何もかも最悪だな。」

俺は。
そう呟いて、ぐっと腹に力を込めて自室へ向かった。




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