Silver soul2

□隣同士が一番自然
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「土方ー、ノート写させてヨ。」


ざわざわと賑わう教室。
授業と授業の合間の休憩時間に、神楽は自分の椅子を僅かに引き寄せて土方の机の上に自分のノートを広げた。


「お前また寝てたろ。」
「土方が起こしてくれなかったら、また銀ちゃんにデコピンくらってたアル。」


シャーペンをかちかちと鳴らして土方のノートを自分のノートの上に置く。
それを写していきながら神楽はまじまじと彼のノートに書かれた字を見つめた。


「相変わらず綺麗な字アルな。」
「そりゃどうも。」


男にしては整った字体に神楽はいつも感心する。
自分のノートなど途中から日本語ではないものがつらつらと描かれているというのに。


「ありがとナ。」
「どーいたしまして。」


写し終わった神楽は一言土方に礼を言うと、また自分の席に椅子を戻した。
同時に鳴る始業のチャイム。
次の授業担当の教師が教室に入って来ると、間もなく授業が始まった。


「じゃあ、教科書の85ページを開いてー」


パラパラと生徒の教科書をめくる音が聞こえる。
と、隣から、あ、という声が聞こえて土方は右隣の席の神楽に視線を寄こした。


「どうしたんだよ。」
「教科書、忘れたアル。」


はあ!?これには土方も耐えきれず素っ頓狂な声をあげるが、全く気にしていない本人はへらへらと笑みを零していた。


「お前、授業受ける気あんのかよ。」


半ば呆れ気味にそう言うと、神楽はまたへへ、と笑う。
笑い事じゃないと言ってやりたかったが忘れたものは仕方ない。


「土方見せてー。」


案の定の彼女の言葉にやれやれと教科書を右側に寄せる。
ガタガタと寄せ合う二つの机。
僅かに距離があったその隙間は、ぴったりとくっついてしまった。


「助かるネ。」
「見せてやるんだから寝んなよ。」
「はーい。」


その後は何事もなく授業が進み、土方の言葉通り神楽は一睡もすることなく無事授業を終えた。
(その代わり早弁していた、ということはこの際目を瞑っておくことにしよう)


そしてHR。
気だるそうに教室に入って来た担任、銀八は思いもかけないことを口にした。


「んじゃ、席替えすっかー。」


は?土方と神楽の頭に浮かんだ一つの単語。
直感的に思ったそれは決して口にすることはなかったが、表情にありありと示されていた。

 い や だ !

しかしそんな二人の思いも虚しく、担任の勝手な気まぐれによって席替えのくじ引きが回される。
それに渋々といった様子で土方は一枚紙を抜き取り、その箱を神楽に渡す。
それを受け取った神楽は、何かうんうんと念を送りながらじっくりとくじの紙を吟味していた。


「はい、じゃあ黒板に記した番号の席に移動してー。」


早く早くと急かせる担任に土方は心の中で舌を打つ。


「土方、残念アルな。」
「あ?…そーだな、」


心底残念そうな顔をする神楽に土方までもがつられて憂鬱になる。
それでももう引いてしまったものは仕方がない。
机の中の教科書などをまとめて新しい席に移動した。


「窓際なのはラッキーだけどな。」


空には青々とした世界が広がっている。
しかしなんだか隣が物足りないような気がするのだ。
その理由は考えなくても分かり切っている。
たかが席の一つや二つで、とも思ったが、意外とあのポジションは土方にとっては重要だったのだ。


「隣、宜しくね。」
「ああ。」


誰でもいい。
そう思い横に目を向け、同時に声をあげた。


「「 あ … 」」


「土方、」
「…神楽、」


何という偶然だろう。
右隣の席、そこには確かに神楽が腰をおろしていた。


「なんだ、席替えの意味なかったアルな。」


そう言って笑う神楽に、そうだな、と笑い返す。
必要以上に浮かれる自分を誤魔化して、土方は自分も椅子に腰をおろした。


「良かった、」


ふいに聞こえた神楽の弾んだ声。


「また土方の隣で良かったアル。」


そう、あまりにも嬉しそうに言うものだから、つられて土方も笑顔になってしまう。
俺も良かったよ、と小さく呟いて。


「また寝てたら起こしてネ。」
「はいはい。」


土方はそう言ってにこにこと微笑む神楽にやれやれと溜め息を零した。
彼女の面倒を見れるのは自分しかいないのだと割り切って。
しかし何だかんだ言いながら、結局は隣り同士が一番自然なのだ。






(自分以外の奴が隣なんて有り得ないだろ!)


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